ポップアップストアのユニークな集客手法
企業が出てくる一方、ポップアップストアでも集客のためのユニークな施策が増えており、今後の進化を示唆している。
その1つが「ソーシャル通貨」の利用だ。ファッションブランド「マーク・ジェイコブス」がマンハッタンにポップアップストアを開設した際、来店客はお金を支払う代わりに、ソーシャルメディアに投稿することで商品を受け取ることができる画期的な試みが実施された。
「#MJDaisyChain」というハッシュタグとともに、Twitter、Instagram、またはFacebookに投稿することで、マーク・ジェイコブスブランドの香水、ネックレス、財布が贈呈されたという。Instagramへのベスト写真投稿には、ハンドバッグが贈られたようだ。
マーク・ジェイコブスのポップアップストアはニューヨークだけでなく、ロンドンとアムステルダムでも開設、そこでも同じようにソーシャル通貨が用いられた。ロンドンとニューヨークに拠点を置くクリエイティブエージェンシーCULTによると、この取り組みで数多くのメディアの注目を集めただけでなく、ソーシャルメディア上で大きな広告効果をもたらしたと指摘。ポップアップストアへの来店客総数は2万7,000人、メディア露出は600件以上、Instagramのインプレッションは1,500万回、Twitterのインプレッションは2,600万回に上ったと分析している。このプロモーションの結果、173%の売上増につながったという。米国の若者向けライフスタイルメディアObsesseeも2016年ロサンゼルスにポップアップストアを開設した際、マーク・ジェイコブスと同じ手法を導入。Facebook、Instagram、Snapchatへの投稿で、来店客にデニムジャケットやサングラスを贈呈。メディアがポップアップストアをオープンした初めてのケースとして注目を集めた。
ポップアップストア・トレンドを支える様々なサービス
ポップアップストアがここまで大きなトレンドになっている理由として、空きを出したくない不動産側の思惑と短期リースで店舗を借りたいという小売りブランド側の思惑が一致していること、また新しい体験を求める消費者が増えていることなどが挙げられる。
さらにポップアップストアの開設と運営を支える新しいサービスが登場していることもトレンドを勢いづかせているようだ。
その1つがポップアップストアに特化した店舗マーケットプレイスだ。主要サービスにはStorefrontやAppear Hereが挙げられる。
Storefrontは2012年に米国でサービスを開始し、現在既に英国、フランス、オランダ、香港、イタリアに拠点を構えるまでに拡大。エルメス、ロレアル、サムスンなどのグローバルブランドのほか、カニエ・ウェスト氏やヴィクトリア・ベッカム氏など著名人のポップアップストア開設を支援した実績を持っている。
このプラットフォームでは予約から店舗開設までワンストップで簡単に行えることから「ポップアップストア版Airbnb」と称されている。今後は香港を足掛かりとして中国本土に打って出る構えだ。一方、ポップアップストアの増加で、短期でありつつも高品質な接客サービスを行える人材への需要も高まっており、その需要に呼応するサービスが登場している。
AllWorkは「リテール人材版ウーバー」と称される新しい人材プラットフォームだ。このプラットフォームに登録されているのはセールス・接客スキル(特に美容分野)が認定された人材で、ポップアップストアの開設で人手が欲しい小売りブランドはUberで車の予約をするように、アプリで簡単にセールス人材を予約することが可能だ。
現在米国小売業界では全体的に求人数が急増、特に短期人材需要が高まっておりAllWorkのようなプラットフォームへのニーズが顕在化している。ウォール・ストリート・ジャーナルによると、2018年8月時点の米国小売求人数は79万件と前年の16万5,000件から大幅に増えていることが判明。
また全米小売業協会(NRF)の予測によると、2018年末休暇シーズンの小売業売上高は前年比4.3〜4.8%増加し7,174億ドル(約80兆3,400億円)〜7,208億ドル(約80兆7,200億円)に拡大、これにともない休暇シーズンだけで58万5,000〜65万人の短期人材需要が発生する見込みだ。米百貨店大手のMacy'sは、今休暇シーズンに8万人の短期人材を雇用する計画を明らかにしている。
マイクロストアにポップアップストア、リテール分野で勢いを増すトレンドはどこまで進化を続けるのか。これまで欧米市場を中心に拡大してきたトレンドだが、巨大な消費者市場である中国にも波及し始めていることを考慮すると、この先さらに大きな変化が起こる可能性も否定できないだろう。今後の展開からも目が離せない。
