視点を変えたテクノロジーの活用で意外性を生む
――佐藤さんは、ARやVRなどの新しいテクノロジーも積極的に取り入れていらっしゃいますね。
2016年から担当している、日本政府観光局(JNTO)のヨーロッパを対象とした訪日インバウンドプロモーションでは、毎年新しい手法やテクノロジーを積極的に取り入れています。これまで、JNTOは国ごとに異なるコミュニケーションを展開することが多かったようですが、弊社が担当している事業は欧州15ヵ国を対象にした、JNTOとしても初となる大規模横断型プロモーションです。
まず1年目は、コンセプト策定やブランドの顔となるクリエイティブの制作を行いました。ブランドムービーは欧州の視点を取り入れるため、ドイツ人映像作家と共同制作し、ブランドサイトで気になったロケーションをクリックすると、詳しい情報が表示されるインタラクティブな設計にしています。
そして2年目は、1年目にブランディングしてきた土台を活用し、旅行意欲を喚起させる体験をテーマとしたVR動画とARの施策を行いました。VR動画は一般的に主観の映像、つまり“ヒト視点”の映像が多い傾向にありますが、JNTOでは“モノ視点”の撮影も盛り込んだことがポイントです。たとえば回転寿司のお皿の上にカメラを置いて、お寿司視点の映像を撮る。ゲームセンターのクレーンゲームの景品視点で撮る、といった映像です。
さらにVR動画を活用して、JNTOの欧州5ヵ国のFacebookページをプラットフォームにしたプレゼントキャンペーンも実施しました。VR動画を視聴頂き、気に入ったシーンをFacebookでコメント頂くと応募完了となる仕組みです。するとキャンペーン開始後、日本への熱い思いにあふれた長文のコメントが数多く集まり、合計で約28,000件の応募がありました。JNTOのFacebookアカウントのフォロワー数も増え、ソーシャル上での話題拡散に大きく貢献しました。VR動画は公開からおよそ1年経ちますが現在でも再生数が伸びていて、累計1,300万回を超えています。
ARインタラクティブビジョンは、巨大なサイネージの前に立つと、歌舞伎・舞妓・侍の伝統衣装に変身できる仕組みになっています。観光地で見かける顔をはめて撮影するパネルのデジタル版、というとイメージしやすいかと思います。歌舞伎も舞妓も侍も、本職の方にご協力いただき、本物の衣装を着て3Dモデルを制作しました。体の動きに合わせてARの衣装も揺れるように再現するなど体験の質にもこだわりました。

――日本らしさを感じるコミュニケーションですが、あえて定番を狙われたのですか。
我々も実際に欧州現地の方々へグループインタビューを重ねて得た気づきなのですが、意外とヨーロッパの方は日本のことを知らないんです。そのため王道で、日本へ行かないと体験できないことに絞ったコミュニケーションが必要だと考えました。
そして3年目となる今年は、より訪日へ直結するように、日本を代表する約120スポットを選抜し、好きな観光地を10スポット選ぶと、オリジナルの旅行プランがシミュレーションできるWebコンテンツ「TRAVEL PLAN MAKER」を展開しています。