サブスクリプションへ舵を切るなら

有園:コンテンツとオーディエンスデータの分析を前提にサブスクリプションのビジネスを始めれば、たとえば離脱しそうな人の検出や、リターゲティング広告の頻度の最適化などもできるようになる。デジタルビジネスでは、まあ当たり前とも言えますが。
戸井:その点では、追いかける指標も変わりますよね。
有園:たとえばWebメディアでも、KPIをPVではなく読了率や滞在時間に置くケースが増えていたりしますが、日経ではどう考えているんですか?
戸井:日経電子版では毎日ニュースを配信しているので、ユーザーがどれくらいの頻度で来てくれて、どのくらいページを消費するかを指標として重視しています。もちろん、広告ビジネスの観点ではPVは重要な指標の一つです。
一方で、サブスクリプションビジネスの観点で考えると、PVの多い記事が有料会員や無料登録会員へのコンバージョンにそのままつながるかというと、必ずしもそうではありません。
有園:なるほど。それは、閲覧内容をしっかり見ていかないと打ち手を見誤りますね。
戸井:そうなんです。ちょっと見出しがセンセーショナルだとPVはばーんと伸びるかもしれないですが、日経で有料読者になるような方々は別にそういう記事を求めているわけではありません。媒体としての影響力を高めるためには、一定の規模まではリーチも必要だと思いますが、サブスクリプションビジネスに舵を切るなら、やはり情報接触の内容を見ないといけないと思います。
メディアの資産はコンテンツとオーディエンス
有園:先ほどNetflixを引き合いに出してしまいましたが、そうはいってもそれら娯楽と、マスメディアが戦後からの日本で担ってきたジャーナリズムや文化の形成を一律に語ることも難しいと思っているんです。また、ネットが普及して、皆の関心が高い情報やニュース性のある情報、いわゆるマス向けの平均的な情報は無料かつネットで得られるようになってしまったことも厳しい状況の一因です。
戸井:そうですね。その中で有料読者を増やしているニューヨークタイムズやワシントンポストなどは、情報の“解釈”が支持されているのだと思います。
有園:何を売っていくのか、ということですよね。その解釈という点に加えて、私はより専門化・高度化するのもひとつの道だと考えています。日経はその動きが早くて、日経産業新聞や医師向けの日経メディカル(日経BP社)といった定期購読の専門誌で特定読者をしっかり捉えていますよね。
戸井:メディア企業は、コンテンツによってセグメントされた読者と、企業(クライアント)をマッチングさせることで、ある種のプラットフォームビジネスをしてきたのだと考えています。日経グループは、バーティカルな領域における「特徴のある」コンテンツと、オーディエンスデータという資産が、強みだったのだと思います。専門領域で独自の視点から、情報の解釈が行える記者が一定数存在するということが、競争力の源泉でしょうね。