企業のデータ活用は「道半ば」
――近年、マーケティングにおける「ビッグデータ」の活用状況には、どのような変化がありますか?
飯野:業種や企業規模にもよるので一概には言えないのですが、10年前と比べると、データ活用は確実に進んでいます。ただ、まだ多くの企業では「道半ば」という状況だと感じています。
――それはなぜでしょうか?
飯野:要因は大きく二つあると思っていて、一つは、経営者や役職者の交代で都度方針が変わり、組織のなかで「データを活用して事業を推進する」というカルチャーがなかなか維持・醸成されないこと。もう一つは、人材・コストの問題です。ビッグデータを活用するためには、高度な情報ハンドリングスキルを持つ人材が必要ですし、膨大なデータをストレージするだけでも、クラウドサービスへの投資などのコストがかかります。
――「データ活用」というカルチャーがそもそも根付いていない企業もあるのですね。また活用を進めている企業でも「人材・コスト」の面で課題があると。
坂爪:BIツールの普及も進んでいますが、多額のコストがかかったり、個別にカスタマイズできる分導入までに長い時間がかかったりすることもあり、まだ資本力のあるごく一部の企業に限られています。
多くの企業では、様々なアプリケーションから取得したデータを担当者がエクセルにまとめて分析し、社内で共有していくというスタイルが今も多いようです。この方法だとデータを整理するのに膨大な時間を要しますし、属人化してしまっているので、「その人がいなくなると、誰もわからなくなる」という問題にもつながります。
「カジュアルにデータ分析できるツール」を目指して
――なるほど。では、そのような背景のなか、「iTree」はどのような狙いから生まれたツールなのでしょうか?
飯野:日本は少子高齢化が進み、労働人口が減少していくことは確実です。そんな中、現在と同等以上のGDPを維持していくとなると、一人当たりの生産性を高めていかなければいけません。弊社のお客様である消費財メーカーのマーケティングにおいても、業務の生産性を高めていく必要があります。
そのために、今入手できているデータを、日々もっとカジュアルに活用いただけるツールを提供したいと思い、「iTree」の開発に至りました。
坂爪:弊社はマーケティングリサーチの会社なので、主力事業は調査データを企業に提供していくことです。しかしビッグデータの時代では、データ単体としての価値は下がっていき、我々が提供する調査データの価値についても同様です。
そのため、複数のデータの一元化と活用に焦点を当て、誰でもデータ活用ができるツールを提供しようと考えました。これまでアナリストとして企業の立場に立ち、どうやってデータを活用していくと良いのかを考え、一緒に商品開発やPDCAサイクルの構築などを行ってきました。そうした経験で得たものを、「iTree」の開発には活かしています。
売り上げの好調・不調の要因を一目で確認
――では、「iTree」とはどのようなツールか、概要をお聞かせいただけますか?
坂爪:「iTree」は、マーケティングデータの分析を自動化する消費財メーカー向けのダッシュボード・アプリケーションです。第一弾コンテンツとして提供開始した「トラッキングナビ」では、商品を販売した後に、定点的に見なければいけないデータを集め、どこに売り上げの好調・不調の要因があるのかということを一目で確認することができます。
使い方はシンプルで、まず「iTree」を開いていただくと「販売量」「シェア」など、あらかじめ設定しておいた目標の達成度が確認できます。到達状況をチェックした後は、「認知」「購入意向」「トライアル購入」「リピート購入」という購買ファネルごとの達成度を見ていき、どこに好調・不調の要因があるかを検証していきます。
坂爪:たとえば上の例だと、「認知」「リピート」に問題があることがわかります。未達の要因を探るため、「認知」の詳細を見ると、ブランド認知経路や広告量は適切なのか、どれくらいの店舗に配荷されているのか、店頭で棚のスペースを確保できているか、といったチェックすべき項目がまとめられているので、それぞれの項目に関連する詳細なデータを競合商品のデータと比較しながら確認し、要因を特定していきます。
消費財メーカーのマーケティング課題を類型化
――集計したデータのどこを見ていけばいいかが直感的にわかるようになっているのですね。検証の論点などは、どのように定めていったのでしょうか?
飯野:「iTree」の構想段階から、外部の戦略コンサルタントにもプロジェクトに入ってもらい、マーケティング課題を類型化しました。そうして、消費財メーカーのマーケティングにおいてどのような論点があるかというロジックツリーを作っていったのです。検証の論点は、これらをベースに定めています。そして、論点の答えが出せるよう、データベースを横断して様々なデータを集約して、誰もがすぐに読み取りやすいよう順序立てて表示しています。
坂爪:ただたくさんのデータがあっても、日々データ活用をしている我々でさえ、どこを見れば良いのかというのはわかりません。先に仮説があって、どこにボトルネックがありそうだなという予測が立たないと、データは活用していけないのです。
「iTree」を活用いただくことで、これまで多くの時間・手間をかけていた「データ収集・分析」を大幅に短縮することができます。ぜひ、新しく生まれた時間で、本来時間や労力をかけるべきだった分析の深掘りや、施策プランの立案、商品開発などに注力いただき、業務の生産性を高めていってほしいですね。
インテージが持つ多数の「パネルデータ」を活かして
――他のマーケティングツールなどと比較すると、「iTree」ならではの強みはどんな点でしょうか。
坂爪:インテージだからできることが二つありまして、一つ目はクライアント企業が基幹として使っているパネルデータを多数保有しているところです。各社が持つ売り上げデータや出荷データはもちろん一番プライオリティが高いのですが、それらと比較するための競合や世の中一般のデータをふんだんにシステムに組み込むことができます。
二つ目は、これまで消費財メーカーだけでもおよそ400社と取引がある中で、各社が持つ課題に対してどういったデータを指標として見ているかという知見が溜まっていることです。それを先ほど飯野がお話ししたロジックツリーという形で「iTree」に落とし込んでいます。
飯野:導入コストも、BIツールと比較するとかなり抑えられるため、予算面で導入が難しかった中小企業や、なかなか経営者や上司の理解を得づらかった企業の方にも、導入してもらいやすいようになっているのではないでしょうか。「iTree」がデータ活用を企業内に根付かせるきっかけになればと思います。
すべてのマーケティング課題を解決できるプラットフォームへ
――最後に、今後の展望をお聞かせください。
飯野:とにかく1社でも多くの消費財メーカーに「iTree」の仕組みを知っていただき、使っていただきたいです。使っていただくことによって、不満点やいろいろなフィードバックも得られると思いますので、それを真摯に受け止めて、さらに強化していきます。
また、最初は「トラッキングナビ」だけですが、他の機能もお客様の声をいただきながら開発していきたいと考えています。
坂爪:「iTree」には「Marketing Navigation Platform」というサブタイトルをつけています。企業のマーケティング課題は商品の販売動向だけでなく、プランニングや営業の面にもありますので、将来的にはそういったところをすべて対応できるツールにできたらと思っています。
たとえば弊社のデータ以外にも、各企業の持っているデータや他の調査会社、データベンダーが持っているデータも「iTree」で取り込めるようにしていくなど、いろいろな課題に合わせた機能を開発・追加し、プラットフォームとして完成させていきたいです。
また、今は消費財メーカー向けのサービスですが、将来的にはサービス業や耐久消費財のメーカーにもお使いいただけるような機能も提供していけたらと考えています。