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MarkeZine Day(マーケジンデイ)は、マーケティング専門メディア「MarkeZine」が主催するイベントです。 「マーケティングの今を網羅する」をコンセプトに、拡張・複雑化している広告・マーケティング領域の最新情報を効率的にキャッチできる場所として企画・運営しています。

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定期誌『MarkeZine』特集

アプリ活用がしたければCRMを心得よ

事業成長につながる広告とASOのポイント

 ここからは、具体的にアプリをリリースして以降のポイントを解説します。冒頭の図表1にありますが、アプリマーケティング施策は大きく「広告」「ASO」「CRM」の3つに分かれています。ここでは、広告とASOについて解説します。

 ポイントは2つあり、ひとつはKPIをCPIだけでなくROASでも見ることです。一部の悪徳な代理店では、実際には日本語圏ではない地域に安いCPIで広告を配信しているケースもあり、CPIの安さだけにつられるのは危険です。同時に、ROASを測る指標は、必ず事業主側が直接確認できる管理画面からチェックすることが重要です。レポーティングだけではわからないので、ログインの権限は事業主側で持つようにしてください。

 もうひとつはアプリ内で蓄積したユーザーデータを活用し、エンゲージメントが高いユーザーを獲得するということです。既に獲得できたユーザーを分析し、類似ユーザーに広告を配信できれば(オーディエンス拡張)、獲得後の離脱率は低くなります。

 ここで知っておいていただきたいのは、世の中のアプリ広告費のうち8割ほどがFacebookとTwitterに集中していることです。その理由は端的に、広告のパフォーマンスが高いからですが、冒頭で少し触れたROASで見た場合に特に成績がいいことが大きいです。この2つのメディアはアプリのデータ連携ができ、オーディエンス拡張の精度も高いので、獲得効率が高いのです。

 アプリ広告の成果を確認できるツールの導入と、IDFA(iOS)およびAAID(Android)という2種類の広告IDデータ、およびアプリ内の行動データの蓄積が必要ですが、条件が整えば「アプリ内で高額課金している人と似た人にだけ広告を配信する」といったことが可能です。

 また、ASOについては、いまだにアプリの総ダウンロードの6割ほどがAppStore内の検索から流入していることから、ここでのキーワード検索に注力することが一番重要です。アイコンやスクリーンショット、説明文やレビューなどでコンバージョンが変わります。そして、CRMに注力してインストール後の満足度が上がればレビューが向上するので、ASOはCRMと連携しています。同時に広告からAppStoreに着地した人がインストールするかどうかもASOが左右するので、広告とASO、CRMはすべて連携していると言えます。

CRMの経済効果と顧客データ獲得の価値

 次に、3つ目のマーケティング施策であるCRMについて見ていきます。ここでお伝えしたいのは、冒頭で重要性を紹介したリテンションに大きな影響を及ぼす、CRMの経済効果です(図表3)。

図表3 CRMに取り組むことで得られる経済効果
図表3 CRMに取り組むことで得られる経済効果

 単純に、CRMと広告を比較したときの費用対効果を解説します。月間の広告費が500万円のアプリで、CPIは500円とすると、500万円で1万インストール獲得できることになります。仮に1ヵ月後のRRが15%の場合、そこから1,500人が残ります。

 当社の経験上、これまであまりCRMに力を入れていなかったアプリがごく普通のレベルでアプリ内コミュニケーションやユーザー活性化施策に注力するだけで、1ヵ月で5%程度はリテンションレートが上がります。すると前述の例だとリテンションレートは20%になり、2,000人が残る計算になります。この増加分の500人を、元のRRである15%で広告まで逆算すると、追加で500人/0.15=3,333人のユーザーを獲得する必要があります。それに必要な広告費は167万円になります。元の広告費500万円から見ると、33%の余剰予算がなければ、CRMに注力している競合に負けてしまうということです。

 したがって、市場が飽和しているゲーム業界や、他にも成熟期にある業界では、CRMに力を入れないと生き残れないと言っても過言ではありません。アメリカのゲームアプリ企業などは今、CRMの専門部署をどんどん充実させ、コミュニケーションデザインの専門家とともに厳しくPDCAを回してユーザー体験を改善し、RRを高めています。

 そこで皆さんからよくCRMの秘訣を聞かれるのですが、これには近道はありません。とにかくデータを見ながらA/Bテストなどでトライ&エラーを繰り返し、地道に改善していくのみです。大まかに、初回起動、利用開始、継続利用、課金という4ステージごとにユーザーに達成してほしいゴールを設定し、そこに至る行動パターンの分岐を踏まえてシナリオを作成して、反応を確かめながら改善していきます(図表4)。

図表4 4つのステージごとにシナリオを考える必要がある
図表4 4つのステージごとにシナリオを考える必要がある

 パーソナライズしたメッセージをユーザーごとにどう配信し分けるかがカギなので、アプリで獲得できる属性などプロフィールデータとアプリ内の行動データからユーザーをターゲティングし、高速でPDCAを回していくのが正攻法です。

 駆け足ですが、アプリマーケティングの前提から具体的な運用のポイントを解説してきました。前述のように、アプリマーケティングはリテンションを中心に、広告、ASO、CRMの各施策がつながっているので、いずれかを高めれば相乗効果で継続率に好影響を及ぼし、逆にいずれかがおろそかだと全体として成果が上がらないのが実情です。

 特に本稿でも重要性を強調したCRMは、一気に効果を高めることは難しく、地道な努力が必要ですが、逆に言えば一歩一歩PDCAを回せば確実に効果が得られる部分でもあります。見過ごされがちですが、今後はCRMに注目し、アプリで事業を伸ばしながら新規獲得にも活かして、ユーザーとの長期的なエンゲージメント構築を目指していただければと思います。

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この記事の著者

平田 祐介(ヒラタ ユウスケ)

Repro株式会社 代表取締役
1980年、東京都生まれ。戦略コンサルタント出身のシリアルアントレプレナー。大手コンサルティングファームに入社後、主にメーカーに対して経営戦略立案支援や成長支援業務に従事。2011年から複数の事業の立ち上げに関与したのち、2014年にReproを創業。世界59ヵ国6000以上のサービス...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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MarkeZine(マーケジン)
2019/02/25 13:15 https://markezine.jp/article/detail/30379

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