正しい答えを返すだけでは埋められないものがある AI対話システム「かたらい」の可能性
今回紹介する「かたらい」は、「雑談」をテーマにしたAI対話システムだ。ウェブサービスやリアルなロボットにAPIで接続することで、自動でユーザーと雑談を行うというもの。
かたらいは、NTTドコモの新規事業創出プログラム「39works」から始まった。「39works」は、パートナー企業と協創し、企画から開発、運用・保守までを一体で進めながら、高速PDCAにより改善を繰り返し、新ビジネスを創出し、育むプログラムである。かたらいプロジェクトにかかわるメンバーも、現状で4名と少数精鋭。かたらいプロジェクトを率いる大西可奈子さんは、大学時代から対話システムひと筋、その道10余年という人である。
「誰かとコミュニケーションをとる際に、雑談をしない人はいないと思います。誰かと話したい、コミュニケーションをとりたいという欲求は、人間の根底にあるのではないでしょうか。かたらいの最終目標として、雑談によって『人が抱える寂しさ(孤独感)を減らす』を掲げています」(大西さん)
“雑談”を実現するかたらいのAI対話技術は、膨大な対話データに支えられている。ドコモの39worksでは、複数のAIサービスがリリースされているが、それはグループの強みとする技術であるからとも言える。
かたらいは、ユーザーとの対話の履歴からユーザーの発話が何を意図しているか類推し、回答を返すことで雑談を実現する。具体的には、会話の焦点は「何」か、質問すべきか共感すべきかといった「対話のタイプ」のふたつを推定し、学習したモデルからどの返事を返すべきかを推定する。応答の種類をシナリオに換算すると、4,000万超という膨大な数になる。
「チャットボットサービスが世に出る前から、NTTグループは対話の研究に取り組んでいます。かたらいチームも密に連携し、NTTの技術を取り入れています。2012年3月に『しゃべってコンシェル』サービスをリリースし、対話のログが貯まっていました。解析すると、雑談がかなりの割合を占めていることがわかり、『雑談関連のサービスはニーズがあるのでは?』というアイディアが生まれ、かたらいの前身となる技術の研究が始まりました。チャットボットをはじめとする対話サービスはいくつもありますが、雑談にビジネスニーズがあると考えている企業はそれほど多くないと思います。また、雑談は技術的にも難しいものなので、かたらいは日本でもめずらしいサービスだと考えています」(大西さん)
かたらいの特徴は、チャットボットやスマートスピーカーと比較してみるとわかりやすい。これらは24時間365日、ユーザーからの問い合わせに(一次)対応し、シナリオに沿って迅速に回答を返すことで、ユーザーに利便性を提供する。一方で、シナリオ外のやりとりは「わかりません」となり、それ以上のコミュニケーションは発生しない。もちろん目的は達成しているのだが、それでは物足りないと感じるのが人間でもある。
「スマートスピーカーに関しては、見た目の影響も大きいと思います。スピーカーと雑談を続けようと考える人は、そう多くないでしょう。一方のかたらいは、ロボットやぬいぐるみなど、さまざまなものとAPIで接続できます。『人が抱える寂しさ(孤独感)を減らす』という最終目標にも、見た目は大いに関係すると考えています」(大西さん)
かたらい活用事例のひとつに、日本初の本格的キャラクター型コミュニケーションロボット「ATOM」(講談社)がある。「手にしたその日から、あなたに話しかけます。」のコピーどおり、対話を楽しむためのロボットである。
「先行して、ドコモのシナリオベースの自然対話エンジンをご利用いただいていました。そのエンジンで大量のシナリオが書かれているので、ほとんどの会話は成立します。しかし講談社様は『ATOMとたくさんの会話をしてほしい』という強いこだわりをお持ちで、かたらいをご紹介すると気に入っていただけました。自然対話エンジンのシナリオで返せない場合には、かたらいに任せるという、シナリオと雑談を組み合わせた利用をされています。大量のシナリオを準備したうえで、その先のコミュニケーションを求める場合、今のところかたらい以外の選択肢はないと言っていいと思います」(大西さん)