「PR=パブリックリレーションズ」の認識がまだ足りない
――本田さんが『戦略PR 空気をつくる。世論で売る。』(アスキー新書)を出されたのが2009年なので、ちょうど10年の節目の独立になるのですね。はじめに、お立場と事業内容をうかがえますか。
2006年に設立してずっと社長を務めていた、オムニコムグループ傘下のブルーカレント・ジャパンを今年3月で退き、4月に株式会社本田事務所を立ち上げました。ブルーカレントではシニアストラテジストとして関係は継続しますが、当面は新会社の業務がメインになります。
本田事務所ではPR戦略立案に特化し、サービス領域を「マーケティング」と「経営広報」の2つに絞って活動していく予定です。経営広報では特に、創業期だからこそ広報で事業にドライブをかけられるよう、スタートアップの支援に取り組んでいきます。
――新会社設立のリリースでは、大きな特徴として「フレキシブルチーミング」という動き方、働き方をしていくと掲げられていました。
そうですね。平たく言うと、既存のPR会社や広告代理店との連携だけでなく、フリーランスや副業としてPRに従事する人ともフラットにつながって、案件の目的や事業領域ごとに柔軟にチームを編成して動いていきます。時期も固定ではなく、期間限定で関わる人がいてもいい。そうした組み方で、成果を最大化していきます。
企業やブランドと世の中との関係構築
――会社単位ではなく「個」も活かしたチーム編成は、昨今の働き方改革にも通じるところがあるのかなと思います。その点も後ほど改めてうかがいますが、まずはリリースで独立の背景としても記載されていた「本来あるべき『PR戦略』の導入にはいまだに大きな課題がある」という点について、詳しくお聞かせいただけますか。“本来”とは、どういうことでしょうか?
前提として、日本ではPRの戦略と戦術が一緒くたに考えられている状況があります。PRが発祥し確立したアメリカでは、その名称のとおり「パブリックリレーションズ」=「公共と関係を築くこと」としてPRが認知され、企業における地位も高いのですが、日本だとプレスリリースだとかパブリシティの話だという認識がいまだにあります。
たとえばこの4月、駆け込むように「平成最後の〇〇」というリリースがたくさん出されました。それによるパブの獲得はPRの成果のひとつですが、リリース発行はあくまで露出プランニングにおける戦術であって、これがPR戦略だという考えは少しずれていますね。
本来のPR戦略とは、露出云々の前に「企業やブランド、商品と世の中との関係をどうしていきたいか」という大きなストーリーを描き、実現する道筋を立てることです。そこには小手先のテクニックではない、知恵と労力が必要です。
――それを10年前から訴えてこられたのに、いまだに認識のずれがある、と?
ええ。PRとは戦略性があるものだ、と言いたいがために拙著のタイトルも『戦略PR』としましたし、出版以降はそのテーマでの講演などもかなり多くしてきました。もちろん10年前よりは正しい認識が広がっているとは思いますが、まだまだ深まる余地があるので、改めて明確に打ち出していきたい思いがありました。