フルファネルでのアプローチが必要に
「パワプロアプリ」は、人気野球ゲームシリーズ「実況パワフルプロ野球」のモバイル版として2014年12月に配信が開始された。野球ゲームが楽しめるのはもちろんのこと、選手を育成していくことができる「サクセスモード」も醍醐味となっている。
同アプリのデジタルマーケティングを手がけるのは、コナミデジタルエンタテインメント(以下、KONAMI)のプロモーション企画本部 デジタルマーケティング部のメンバーだ。毎年12月には大々的なキャンペーンを行い、2018年末は4度目の実施となった。その取り組みについて、デジタルマーケティング部 部長の佐藤氏、デジタル広告を担当する金子氏、SNSや動画メディア活用とWeb番組「パワプロTV」の企画、構成、番組MCを担当する瀬戸氏に話をうかがった。
2018年末のキャンペーンでは、フルファネルでのアプローチに注力したという同社。その理由を、佐藤氏はこう話す。
「これまでは、ROAS(費用対効果)やCPI(1インストールあたりの獲得コスト)といった具体的な数値が見える獲得部分にマーケティング予算が集中していました。しかし近年、ニーズが顕在化した方だけにアプローチしても、インストール数が伸びなくなってきている状況でした」(佐藤氏)
興味・関心、比較・検討を促す施策を
顕在層へのアプローチが中心になっていることを課題に感じていた同社では、テレビCMを通じてアッパーファネルである認知を取る施策も展開していた。しかし佐藤氏は、興味・関心ならびに比較・検討のファネルに移行できていない点を課題に感じていた。
「これまでは主に認知の部分はテレビCMが担い、獲得はデジタル広告が担うという使い分けをしてきました。また、デジタル広告でも認知目的の広告を配信するようにしてきましたが、その先の態度変容が起きていないということがわかりました。認知の先の興味・関心、比較・検討といったミドルファネルへの施策を行う必要があったのです」(佐藤氏)
その中でTwitter Japanとミーティングを行う機会があり、「Twitterであればミドルファネルに効く施策が行えるのではないかと考えるようになった」と金子氏は語る。
「Twitterにはゲーム好きな方が多く、既存のアプリ利用者であるお客様の中にもパワプロアプリについてガチャ結果や感想などを日常的にツイートする方がたくさんいらっしゃいました。Twitter上にいるお客様のツイートとコミュニティを活かせば、課題としていたミドルファネルへの施策が行えるのでは、と考えました」(金子氏)
会話の活性化に必要なのは対立構造
25年続くロングセラーゲームとしての認知度の高さと過去3年間に行ってきたアプリに対する施策により、「パワプロアプリ」の名前自体は広く認知されていた。そこで2018年のキャンペーンでは、獲得ターゲットを「最近プレイしていない休眠顧客」と「名前は知っていてもプレイしたことがなかった新規顧客」に決めた。
しかし、こうしたターゲットに「またやってみたい」「ダウンロードしてみようかな」と思わせるために、コアファンのコミュニケーションを促したという。なぜ直接ターゲットにアプローチしないのだろうか? 金子氏はその理由について、以下のように語る。
「アンケート調査の結果、自分の周りの人が遊んでいることがインストールの強い動機になることがわかっていました。コアファンの方々がTwitterで楽しそうにゲームの話題をツイートしてくれることが、獲得ターゲットの興味・関心、比較・検討を促すのに効果的だと考えました」(金子氏)
KONAMIは「パワプロアプリ」の4周年を記念して、日ごろの感謝をこめて10連ガチャ無料というキャンペーンを実施。この企画で会話をしてもらうため「#パワプロキター」「#パワプロこなーい」という2つのハッシュタグの使用を促した。
「Twitter上で起きているパワプロアプリに関する話題を調べたところ、ガチャ結果が特に盛り上がっていることがわかりました。そのため、25日間10連ガチャ無料という施策が一番お客様に喜んでいただけて、拡散もしやすいだろうと考えました。ハッシュタグについては、Twitterのブランドストラテジーチーム※の方々から、対立構造にすると会話を生みやすいと教えていただき、2つ用意しました」(瀬戸氏)
※ブランドストラテジーチームとは
Twitterオーディエンスの特徴を的確に捉え、広告主のブランディングならびにマーケティング活動においてTwitterを最大限ご活用いただけるような支援を行うチーム。
コアファンから広げていく情報伝達
そして、今回のキャンペーンではあるゴールを設定した。それは、Twitterでの会話をより促進させるため、ガチャ無料キャンペーンの開始から2週間以内にハッシュタグ付きのツイート数が5,000を達成したら、PSRガチャ券をプレゼントするというもの。中々手に入らないインセンティブを用意して、そこに向けた盛り上げを運営とファンで作り上げていく構図を描きだした。
では、そのゴールに向けてどのようなコミュニケーションを仕掛けたのだろうか。瀬戸氏によれば、コアファン向けの情報発信から順に情報を広げていったという。
「まず、Web番組『パワプロTV』でコアファンに向けてキャンペーンについて発表し、ハッシュタグでのツイートを促しました。そして、この発表を皮切りにテレビCMも出稿し認知を広げていきました。また、テレビCMにも2種のハッシュタグを入れる、『パワプロTV』の模様をTwitterのPeriscope(ライブ配信機能)で配信するなど、Twitterとの連動を常に意識していました」(瀬戸氏)
広告×オーガニック×インフルエンサーで情報拡散
Twitterでは、ツイートに任意のハッシュタグを付けて簡単に引用リツイートできる、カンバセーショナルカードを使った広告を配信。また、欲しかったイベントキャラが出た瞬間の嬉しい気持ちを表現した動画広告も出稿した。
それとあわせて、オーガニックツイートでもキャンペーンを周知していった。
「なみきちゃんというキャラクターが情報発信をしている、パワプロアプリ公式Twitterアカウントでもキャンペーン情報を発信していきました。毎日なみきちゃんがガチャを回し、その結果を『#パワプロキター』『#パワプロこなーい』どちらかのハッシュタグを付けてツイートしていきました。なみきちゃんのファンをはじめとしたコアファンに盛り上げていただき、エンゲージメント率も非常に高くて私たちも驚きました」(瀬戸氏)
また、コアファンに人気のあるインフルエンサーも活用し、情報拡散と会話の醸成を狙った。
「『パワプロTV』や弊社がやっている『ファンフェスタ』というファン向けのイベントに出演していただいているめたる村田さんなどにも、キャンペーンへの参加をお願いし、ツイートしていただきました。コアファンに認知されている方から発信していただくことで、スムーズな情報拡散と会話の醸成が期待できました」(瀬戸氏)
これからのメディアプランに求められること
今回のキャンペーンでは、Twitter Japanが施策の企画段階から関わり様々な支援を行ってきたという。たとえば、実際にTwitter上でパワプロアプリに関するどのような会話が起きているかを調査し、そこからどのように会話を発展させていくと良いかと、両社でプランニングしていった。
「Twitter Japanさんからのアドバイスで、ハッシュタグを対立構造に設定したことが、今回のキャンペーンが成功した大きな要因だと思っています。弊社自ら『#パワプロこなーい』というマイナスのキーワードを利用者の方々に促すのは挑戦でした。最終的にハッシュタグは半々くらいの割合になり、『#パワプロキター』がやや多いという結果になりました」(瀬戸氏)
さらにTwitter Japanからの支援は、Twitter内だけの展開にとどまらなかったという。
「Twitter Japanさんからは、テレビCMとの相乗効果などについてもうかがっていたので、ハッシュタグを入れ込み連動させていくことができました。これからのデジタルマーケティングでは、メディアやプラットフォームの特性を知り、それを活かして取り組むことが大事になってくると思っています。そのためには、今回の取り組みのようにチームになってメディアの活用の最大化に向けて協力することが必要です」(佐藤氏)
獲得にも寄与する結果に
では、キャンペーンを通じてどのような成果を上げることができたのだろうか。
まず、瀬戸氏は「パワプロアプリでは過去最高のツイート数になった」ことを高く評価した。キャンペーンが終了した現在も、今回用意した2つのハッシュタグを使って会話をしているファンが多いという。
「施策に共感してくださったお客様が感情をすぐに表現できるTwitterだからこその結果だと考えています」(瀬戸氏)
金子氏はデジタル広告の運用担当者の視点で、今回のキャンペーンをこのように評価した。
「キャンペーンの広告と並行してアプリインストールを目的とした広告配信を行いましたが、そちらにも非常に良い影響が出ました。キャンペーン実施後のCPIの下り幅が、他のメディアに比べてTwitterのほうが大きかったのです。ミドルファネルへのアプローチを通じてTwitter上での会話が醸成されたことにより、『パワプロアプリ』を遊んだことがない方、まだ知らない方にも盛り上がっていることが伝わり、インストール率が向上したことは非常に効果的であったと思います」(金子氏)
佐藤氏も「アプリのダウンロード数も過去3回行ったキャンペーンと比べて一番多かった」と、今回のキャンペーンを振り返った。
獲得以外のエンゲージメントも含めて評価したい
今回の手応えを受けて、今後の施策はどう変わっていくのだろうか。最後に、展望をうかがうと、佐藤氏は「今後もフルファネルを意識した施策を行いたい」と語った。
「今回、効果検証としてアンケート調査と利用者の行動分析を行いました。その結果、テレビCMとデジタル広告の複合接触によって、フルファネルにおいて利用意向が大幅に向上したということがわかりました。これまでミドルファネルへの取り組みが少なかった中で、Twitterで施策を行えて良かったです。今後も、各プラットフォームとメディアの特性を活かした取り組みをいくつか走らせていきたいと思います」(佐藤氏)
瀬戸氏は、自身が担当するWeb番組「パワプロTV」をPeriscopeで配信し、Twitterのトレンド入りを狙っていきたいとした。
そして金子氏は、Twitter広告の特徴を振り返りつつ、今後の活用方法について明らかにした。
「Twitter広告は利用者からのいいねやリツイート、リプライが付くという点も大きな特徴です。広告出稿の結果、どれだけインストールされたかという指標だけではなく、利用者の方の反応やコメントの内容も見て施策を評価したり、次回施策のヒントとして活かしたりできればと考えています」(金子氏)
今回のように、クライアントのマーケティング全体戦略を含めて支援したというのは、Twitter Japanの中でもまだ少ないと同社の担当者は語っていた。しかし今後、メディアと広告主が密にコミュニケーションを取りプランニングすることで、成果を上げるケースは増えるのではないだろうか。