生活者の感情は、行動データだけでは把握しきれないことがある
スマホの普及にともない、多くの企業から新しい動画広告配信サービスやフォーマット・ツール等が続々とリリースされ、活況となっている。読者の皆さんも、動画広告の制作や運用等に携わった経験がある方は多いのではないだろうか。
通常、動画広告に限らずインターネット上の広告は配信先やターゲットを自由に設定し、カテゴリーごとに「リーチ」「エンゲージメント」「表示/再生」などの指標から出稿成果を簡単に把握することができる。このような指標を分析し、次の動画広告制作やメディアプランニング等に活かすことを、一般的にPDCAを回すと呼んでいる。
一方で、先ほどのPDCAから見えてくるのは広告を見た生活者の「行動」の記録であり、「感情」は必ずしもすべて反映されているわけではない。たとえば、ブランディング目的で出稿した動画広告が高頻度で表示された結果、「この広告、何度も流れてしつこいなぁ」と生活者が感じていたとしても、その人がスキップや再生中断などの「行動」を起こさない限り、生活者がネガティブなイメージをもっていることに広告主は気づくことができない。
制作した動画広告を、「行動」を起こさない人たちに対して、いわゆる「アンケート」で意見を聞く時間はなかなか取りづらい。そこで今回は、普段、動画広告が生活者からどのように見られているのか、その一般的な傾向を調査データベースからあぶりだすことで、動画広告を制作・出稿する際に留意すべきポイントを探りたい。
20代女性が動画広告に持つ印象とは?
そもそも動画広告は、生活者にとってどんな存在なのだろうか。今回は、マーケティングの主要ターゲットとして設定されることの多い「20代女性」に広告出稿するシーンを想定して見ていきたい。
20代女性に対し、動画広告についての印象を聞いてみたところ、トップ5は図表2の通りとなった。1位は「商品やサービスに興味がわく」、そして僅差で2位に「新しい商品やサービスが発売されたことを知る」となっており、一般的な購買ファネルで言う「認知」と「興味喚起」が上位というのは納得感のある数字と言える。そして3位以降も、動画広告ならではの特徴である「理解促進」や「イメージ醸成」などがあり、動画広告の制作側が動画広告に期待している要素が生活者にもきちんと受け止められていることがわかる。
しかし、注意が必要な点も見受けられる。バナー広告と比較してみると、動画広告は「ストレスを感じる」という印象が約1.2倍高いのだ。動画広告はインパクトをもって、より丁寧に商品・サービスの訴求ができる反面、バナー広告よりもストレスを感じさせやすい側面があることが改めてデータからも浮き彫りとなった。
通常動画広告を出す際は複数のクリエイティブを用意し、ABテストにかけてより良いものを選び出すというステップを取るが、このABテストにより「脱落」するクリエイティブも、当然ながら一部の生活者は目にすることになる。そして、この脱落したクリエイティブから受けたストレスフルな経験も、生活者には動画広告から得た経験値として蓄積されていく。この脱落したクリエイティブも含めて、最低限不快に思わせないための配慮は常に意識しておくべきと言える。