テレビCMを使ったA/Bテスト、その内容は?
――具体的に、テレビCMを使ってどのような検証をしたのか教えていただけますか。
石川県と新潟県でテレビCMを展開しました。この2つの県に絞った理由は、当社がメインターゲットとしている中堅規模の企業が多いためです。1ヵ月で1,500GRP(Gross Rating Point:延べ視聴率)の広告を配信したのですが、この量に対して見合うだけの中規模事業者が多く、コストパフォーマンスが良いと判断しました。
A/Bテストなので、クリエイティブによってどのような反応があるかを把握するため、地域と期間でクリエイティブを出し分けました。具体的には、小峠さんが出演しているストーリー仕立てのバージョンを石川県、社名を連呼するバージョンを新潟県で流したのです。そして小峠さん出演バージョンと、お客様にインタビューした事例バージョンとは期間で分けました。
――反応を測る指標として、何の数値を用いたのでしょうか。
WebサイトのPV数と、問い合わせ件数です。
――具体的な成果としてはいかがでしたか。
まず、PVやコンバージョンは数倍に跳ねました。多いときだと、一気に4〜5倍にもなったほどです。正直に言うと、単純にその月で回収することを考えれば、もう少し欲しかったのが本音ではありますが、もちろん単月で回収することは厳しいという認識は持っています。
定性的な効果としては、営業の現場にて「テレビCMを見ています」と言っていただくことで、会話のきっかけになったり、信頼感を得られたりということがありました。また、石川県は当社の代表である堀の出身地なのですが、「テレビCMを見たよ」と言われる機会も増えたのです。テレビCMが放映地域に浸透し、知名度が向上している。そういう実感はデジタルマーケティングではなかなか得られないものだと感じました。
――テレビCMに対する社内からの評価は?
社内の評価で言えば、実はその後のタクシー広告のほうが上でした。その理由は、タクシー広告のほうが決裁者に訴求できたことです。当社では問い合わせをいただいた際、どこで当社のことを知ったのかをフォームで確認している他、営業の現場で必ず聞くようにしているのですが、「経営者がタクシー広告で知り、検討して欲しいということで自分のところに話が来た」という回答が多かったのです。
考えてみれば当たり前のことで、テレビCMだとお茶の間の一般視聴者の方も見ます。それに対して都内のタクシー広告は、やはりビジネスパーソンの利用者が多く、ターゲットに対する訴求がしやすい。コストパフォーマンスで言えば、地方のテレビCMよりも都内のタクシー広告のほうが良いかもしれません。
ただ、だからといってテレビCMが無駄だったわけではありません。テレビCMがどこまでワークするのかを確認できたこと、地方の反応が見られたことは、やはりテレビCMをやって良かった点です。いきなりタクシー広告ではなく、その前のステップとしてテレビCMで検証したことは正解だったと思います。
なぜ動画クリエイティブの検証にテレビCMを活用したのか
――動画クリエイティブであれば、テレビCMでなくてもA/Bテストはできるような気がします。それにもかかわらず、テレビCMで実証を進めたのは何か理由があるのでしょうか。
第一に、タクシー広告とテレビCMという違いはあれど、オフラインで検証したかったという点があります。というのは、視聴体験としてはどちらも似ていて、スマートフォンやタブレットを片手に持ちつつ、モニター画面を見るスタイルだからです。要は片手間で視聴するというものですね。こうしたことから、オフラインでテストをしたいと考えていました。
もう1つは、画面のサイズや動画の出方などで、オンライン動画広告とオフラインのテレビCMでは、効果の出やすい動画の質が異なる場合があるという体感があったためです。
――なるほど。では、テレビCMを打つことに不安や心配はありませんでしたか。

もちろん、不安はいろいろありました。まず、どれだけ広告を投下すればいいのか、検証に至る出稿量はどれくらいかわからなかったことが不安でした。
もう1つは、やはりクリエイティブの制作費です。クリエイティブにどれだけの金額を投資すれば良いのか、まったくわかりません。そこでいろいろな会社に相談すると、クリエイティブ制作に6,000〜7,000万円ほど投資して、誰もが知っているような俳優さんに出演してもらい、「カッコいいクリエイティブを作りましょう」と提案されるのですが、それだけ投資して効果はどうなのかを聞いてみると、どこも「やってみないとわかりません」という答えで……。それはやはり不安でしたね。
――その不安はどのように解消されたのでしょうか。
そこが解消できたのは、ラクスルさんのおかげです。ラクスルさん自身が地方のテレビCMを皮切りに、どのような指標を使って検証すれば効果が出るかを実地で会得していったので、そのノウハウを持っています。
私たちのやりたいことを踏まえた上で、「これくらいの広告量を投下し、テレビCMの中でCPAを検証しましょう」という提案をしていただいたのです。テレビCMをやると決めてから、いろいろな会社の方とお話ししましたが、CPAという単語が出てきたのは初めてで、しかも唯一の企業でした。それでラクスルさんにクリエイティブから一気通貫でお願いすることにしたのです。
テレビCMへの投資も小さく始めて改善を重ねる
――スタートアップや中堅企業などがテレビCMをやりたくてもできない理由の1つに、やはり費用面の不安があると思います。HRBrainさんもその点で心配したとのことですが、まず今回の取り組みで費用は概算でどれくらいかかったのでしょうか。
3バージョン制作したのですが、制作費はそれらすべて合わせてもおおよそ大手の3分の1ほどでした。
――なるほど。タレントさんに出演してもらうことは当初からの想定ですか。
はい、その予定でした。タレントさんありきでテレビCMを考えていたという理由もありますが、個人的には、誰だかわからないテレビCMだと印象に残りにくいという懸念もあったのです。
とはいえ、やはりギャランティーの問題がありますし、私どももどんなタレントさんが合っているのかわかりませんでした。そこで幅広い年代に知名度が高く、キラーフレーズがあるタレントさんを何人かご提案いただいたのです。その一人が小峠さんでした。芸人さんは高い知名度があり、なおかつキラーフレーズを持っているので、印象に残りやすいと思い、小峠さんに決めました。
――当初、テレビCMの投下量についても疑問があったとの話ですが、その課題はどうやって解決したのでしょうか?
一般的に1,000〜1,500GRPが反応を得る1つの基準と言われています。石川県や新潟県で、1,500GRPを1ヵ月間出す場合、当時の広告料は200〜300万円くらいでした。
ちなみに都内のタクシー広告と比較すると、当社の場合、1週間で300万円ほどかかりました。費用感としてはこんな感じですね。
――デジタル予算に比べると、やはりコスト感が違いますね。
単月のマーケティング予算で考えると、高いです。通常のWebマーケティング単体で実施している月と比べて数倍の金額が必要になりました。
とはいえ、テレビ広告をやるには億単位の投資が必要というわけではありません。弊社のように、小さく始めて改善を重ね、成果を出していくという方法もあります。