ステップ3.代表的な顧客をリストアップ&購買プロセスを把握
適切なプロジェクトチームを編成した後は、具体的な戦略・施策の立案だ。マーケティング戦略の基本は「誰に」「なにを」「どのように伝えるか」だと言われるが、私は「誰に」の部分を最も重視している。
A社のプロジェクトでは、過去の受注実績が相当数あったので、「誰に」を定める際には複数名の営業メンバーに集まってもらい、代表的な顧客を10社ほどリストアップしてもらった。実際に製品を買ってくれた顧客をベースに議論することで、手触り感をもってターゲット顧客を理解できるからだ。
そして、顧客の属性や抱える課題、実現したいこと、どのようにA社の製品を見つけ、なぜ導入したのかといった購買プロセスを把握した。

こうして、ターゲット顧客とのコミュニケーションシナリオにおいて注意すべき箇所を、次のように整理することができた。
・業界老舗のS社の既存システムを導入している場合が多い
・S社のシステムには5年間の契約の縛りがある
・A社にとっては、5年後の乗り換えタイミングを逃さないことが重要
・5年後も代替手段を検討せず、そのまま使い続けてしまう顧客に対して、課題を喚起する必要がある
・A社の商談受注率は30%以上と高く、製品の競合優位性はある
ステップ4.現状とボトルネックを把握し、勝ち筋を見つける
ターゲット顧客の購買プロセスを把握すると、自社のマーケティング活動の中で「できていること」「できていないこと」が明確になる。
A社の場合は、解決策を検討している顕在層のうち、テレアポや紹介により運良く出会えた見込み顧客にしかアプローチできていないことがわかった。しかし、ターゲット顧客は製品を検討する際に、主に検索エンジンで製品を探していた。SEOや検索広告に取り組んでこなかったA社は、毎月数十件の商談機会を失っていたのだ。
一方、業界1位と2位の会社はSEOや検索広告にも取り組み、明確層・潜在層向けの施策が充実していた。A社も早急な対応が必要だった。
さらに競合分析をする中でわかったのは、上位2社も潜在層向けのマーケティング活動が手薄だったこと。ここにマーケティング戦略上の勝機があった。

結果として、A社は以下のようなマーケティング活動を進めていくことを決めた。
・顕在層向け
―リスティング広告、ディスプレイ広告の出稿
―特定のキーワードでSEO対策
―Webサイトの改善でCV率を2倍に
―導入事例を月に2本作成し、自社サイトで公開
・準顕在層向け
―ブログメディア構築
―ホワイトペーパー作成
―月2回のメール配信
―セミナー開催
・潜在層向け
―年に1回、カンファレンスを開催
―広報活動として、業界のホットトピックに関するリサーチを実施し発表
一方、テレアポや郵送DM、展示会の出展は効率が悪いと判断し、やらないことに決めた。
ステップ5.短期施策と中長期施策に並行して取り組む
サイトのCV率や広告の改善、チャネルの増強といった短期的な施策にリソースを集中させると、確かに足元の数字は伸びる。しかし半年~1年経つと、それらの数値改善は頭打ちになっていく。そこで意識したいのが、短期施策だけでなく、並行して中長期の施策に取り組むことだ。
A社の場合、潜在層向けにカンファレンスを開催するとともに、いくつかの調査リリースを発表するなど広報活動に取り組んでいたことが、1年後に功を奏した。業界内でA社のブランド認知が広がり、リード数が増加しただけでなく、商談化率や商談受注率が向上したのだ。
短期でPDCAを回し結果を出しに行く施策と、1~2年の時間軸で取り組んでいく中長期の施策の両方に並行して取り組むことで、競合他社に一歩抜きん出ることができるだろう。