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nanaco会員を7iDに転換して売上3割増を実現したセブン&アイ OMO時代のデジタル戦略構想とは


企業間で足りないデータを補い合い、得られた知見を社会に還元

 個人が特定されないデータを組み合わせることで、どのような戦略が可能なのか。

 可能性の1つとして検討しているのが、インバウンド分野での活用だ。たとえば、これまで外国人旅行者の購買傾向を探ろうと思ったら、全国2万店舗あるセブン‐イレブンのうち、免税対応が可能な約2,000店舗で免税対象となったPOSを調べ、トレンドを割り出すしかなかった。ただ免税対象となるのは5,000円以上の購入者に限られるため、実態把握は難しかったという。

 ここに、クレジットカードの利用履歴が加わると、「クレジットカードを使ってセブン‐イレブンで買い物した外国人旅行者」の傾向がつかめる。母数としては「5,000円以上買い物をし、免税申請を行った旅行者」よりも多く、より実態に近い傾向がわかる。

 クレジットカード会社の立場に立つと、クレジットカードの決済データだけでは「何を購入したか」はわからないが、セブン&アイHDが持つPOSデータを掛け合わせれば単品レベルで購入品の明細がわかる。クレジットカード会社、セブン&アイHDの両社にとって、探していたパズルのピースがはまるわけだ。

 このほかにも、携帯電話キャリアが国際ローミングサービスを通じて取得する、訪日外国人の位置情報・契約国情報の活用がある。対象店舗の周りにどの国から来た人がどれくらい行き交っているのかが把握できるようになるため、店舗でのマーケティング施策が立てやすくなるという。

近隣や店内にどこの国から来た観光客が多いのかがわかれば、施策方針はたてやすくなる
近隣や店内にどこの国から来た観光客が多いのかがわかれば、施策方針はたてやすくなる

 インバウンドだけではなく、国内消費者に向けたマーケティング戦略の可能性も広がる。たとえば顧客のニーズ把握をしたいのなら、検索キーワードのデータを使わない手はない。

 ファッション分野で言えば、「服装 デート」「服装 結婚式」などTPOに合わせたファッショントレンドを検索で調べる顧客は多い。近年増えているのが「服装 忘年会」など、忘年会シーズンに合わせてファッションを検索する顧客だという。

 「ビジネスファッションがカジュアル化してきたため、取引先や経営層を交えた忘年会にふさわしいファッションを探す若手が増えてきたのでは」と清水氏は仮説を立てている。これを元に、「忘年会に最適なコーディネート」を百貨店ファッションフロアで展開するという施策も可能だ。

 清水氏によると、検索キーワードは商品開発にも使えるという。アイデアの一つが、食材がセットになっていて料理を簡単に作れる「ミールキット」開発への応用だ。検索キーワードを見ると、キャベツや白菜など素材をキーにしたレシピを検索する顧客が多い。特に新婚家庭の場合、当初は「肉じゃが」などのメニュー名で検索していたのが、やがて素材名でレシピを探すようになる傾向が強いという。

 こうしたニーズに対し、メイン素材を抜いて「キャベツのための回鍋肉」などの商品名でミールキットを出せば、食材を使い切れずに困っている顧客の助けになる。「このように、個人を特定しないデータ活用でも、組み合わせて明細を明らかにしたり、全体的な傾向をつかんだりできるだけで、様々な可能性があることがわかってきました」と清水氏は語る。

 セブン&アイ・データラボは、複数企業のビッグデータによって、セブン&アイグループのサービス・商品改善だけでなく、社会課題の発見や解決につなげ、社会にベネフィットを提供するというビジョンを描いている。

 今回のインタビューでは詳細は明らかにされなかったが、たとえば、生活者との接点を大量に持つセブン&アイグループのデータがモビリティ業界やインフラ業界のデータと結びつけば、そこから得られた知見が防災や都市計画にも活かされるだろうことは想像に難くない。

人材育成と採用が鍵

 こうしたデジタル戦略を進めるうえで忘れてならないのが人材だ。特にデジタル戦略の中核となるデータ活用に長けた人材は、業界を問わずどの企業でもニーズが高まっている。そこでセブン&アイHDでは、デジタル戦略を担う人材の育成・採用に関し、3つの方策を展開している。

 第一に、外部からの人材採用を進めつつ、データ分析に優れたパートナーのリソースを活用すること。データ分析・活用においてアクセンチュアとパートナーシップを組み、そのノウハウを吸収すると共に、専門スキルを持つ人材の中途採用を推進している。

 第二に、既存の社員のスキルや知見を高める教育プログラムの展開だ。データ分析を専門とする大学教員に特別にプログラムを組んでもらい、希望者を募ってスキルの底上げを進めているところだという。この教育プログラムでは、Pythonの基礎から実データを活用したデータ分析までを学ぶことができ、これまでに50名ほどの社員が受講したそうだ。

 第三は、専門課程でデータ分析を学んだ学生を新卒採用することだ。データ分析系の研究室に所属する学生など、デジタルに強い人材を採用し育成していくことで、グループ全体のデジタル力向上に努める構えだという。

 データ活用人材の育成や採用には時間が必要なため、外部パートナーの力を借りながら組織のケイパビリティを徐々に強化していくということだ。清水氏は「これまでの流通小売ビジネスの実績を背景に、今後もデジタル戦略を一層強化することで、セブン&アイHDならではの強みを生かした新しいビジネスを展開していきます」と未来を見据えている。

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この記事の著者

岩崎 史絵(イワサキ シエ)

リックテレコム、アットマーク・アイティ(現ITmedia)の編集記者を経てフリーに。最近はマーケティング分野の取材・執筆のほか、一般企業のオウンドメディア企画・編集やPR/広報支援なども行っている。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

江川 守彦(編集部)(エガワ モリヒコ)

東京大学文学部を卒業後、総合広告代理店でマスメディアの媒体営業業務を経験し、出版社に転じて人文系の書籍編集に従事したのち、MarkeZine編集部に参画。2018年よりオーガナイザーとしてMarkeZine Dayの企画にも携わる。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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MarkeZine(マーケジン)
2019/06/26 10:12 https://markezine.jp/article/detail/31288

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