事業貢献するCMOには権限移譲が不可欠
テレビCMがマーケティング部の範疇だったとしても、量販店の派遣スタッフが営業部や販促部の管轄だったら、マーケティング部長では決済できない。同じような話が、商品開発部との間にも出てくることがあるという。
「投資効果を最大化するには、商品開発から広告販促の現場まで、一貫して管理しなければならない。そういう時代になってきていると思う」と小霜氏は続ける。

(C)Advertising Week Asia 2019
だがそれを可能にするには、組織体制や指揮系統が整い、権限移譲も十分にされている必要がある。小霜氏はアドバイザーとして支援してほしいという要望を受ける一方で、「CMOを外部から招きたい、誰かいい人はいないか」と聞かれることもあるそうだ。しかし、多くの場合は「待った」をかけざるを得ない状況だという。
商品開発から販売までの責任をCMOに持ってもらうなら、CMOへそれ相応の権限移譲が不可欠。同時にCMOとして会社に入る側にも、経験値や能力に加え、覚悟が必要だ。そうした双方の環境や心づもりが整わないままCMO候補を招いても、マーケティング部長や宣伝部長の上に、“シニア部長”が増えるようなもので、「ただ複雑になるだけ」と小霜氏は指摘する。
続けて、「CMOを招く場合は役員として招くべきとアドバイスする」とし、その理由を「『マーケティング=経営』とまでは言い過ぎだが、マーケティングも、財務や生産供給、イノベーションなどと並ぶ経営の重要な柱の一本なので。その意識を持つ経営者も増えてきている。一方、組織を一気に変えると軋轢も生じるので、そこに至るまでの円滑化も自分の仕事として認識している」と語る。
マスWeb統合までに存在する課題
次のテーマは、「マーケティングをどう経営に結び付けるか」。マーケティングの事業貢献度に期待する経営者が増えているとはいえ、現場には部門ごとの守備範囲やKPIがある。そのため、投下するリソースを常に最大限、事業貢献へつなげられるわけではない。
たとえば、小霜氏がよく依頼されるという“マスとWebの統合”においては、次のような問題がある。
認知から購買までのファネルを描くとき、その上部をマスコミュニケーションが担い、下部をデジタルによる“刈り取り”が担うことが多い。この場合、上下で組織や決裁権が分断しているために、ほとんどの広告主でその中間、ミドルファネルがすっぽりと抜けている。全体を設計するためには、メディアを俯瞰・融合させれば済むという話ではなく、組織間の連携をどうするか、ひいてはエージェンシーとどう組むかという観点も問われる。
当然、この部分にも前述の“組織を変えると軋轢が生じる”ことが課題に上がりがちだ。さらにいえば、「ときとして個人の利益は企業の利益と相反することがある」と小霜氏は指摘する。セクショナリズムが全体の利益より優先されるケースがある、ということだ。
また、現場がボトルネックとなることも多く、経営層はそこまで眼が届かない。たとえば、撮影や編集現場でデジタル担当の若手が古参の監督に物が言えない、それだけのことでこれまで築き上げてきた戦略がすべて台無しになることがある。
小霜氏はエージェンシーサイドのアドバイザーも務めている経験から、撮影や編集などの制作現場には同席し、こうした“企業の利益に反すること”が起きないよう、かつ個人間の波風も立たないように立ち回るという。