スモールビジネス経験としてのアフィリエイト

西口:同感です。さっきの苦痛に耐える話もそうですが、僕も、修羅場に行くなら早く行けと思っているんです。細分化した領域の専門家になる道も、現時点ではまだありますが、今後どうなるかわからない。そうすると、西井さんのように「どこへ行ってもビジネス成果を出せる基礎体力」をつけるのはすごく汎用性があると思います。
一足飛びにPLを持つポジションや部署に異動したり、転職したりできない場合、なにかお勧めはありますか?
西井:基本はスモールビジネスを自分で追うことが大切。なので自分でアフィリエイトをしてみる、というのはすぐにでもできる勉強方法だと思います。アフィリエイターって実は、サイトを作成したりSEOを工夫したり、SNSのフォロワーが多いならそこを利用したりと、いろいろと自分でやることが多いんです。
何より、自分が成果を上げられそうなテーマを設定しないといけない。今、自分が何を扱えば売れるのか、その入り口から買ってもらうところまで全体を設計し、さらに自分で時間配分を考え、費用対効果も見る。つまり手段だけではなく、どのビジネスドメインで勝負するのかを選択、決定していくプロセスは、それなりの経験になると思いますね。
西口:それなら一人でライトにできますね。
西井:経験を積む点では、ファネルの上から下までを可視化できるECもお勧めです。でも、デジタルベースの世界になって、リアルな商売もファネルがすごく見やすくなりましたよね。僕もECのファネル設計が身についているので、たとえば今もし自動車業界で新車を売るなら、アプリを開発してインストールしてもらい、初回体験はバーチャルで。ミッドファネルでリテンションのコミュニケーションを図って、最後は実車で試乗……みたいなファネルを描いて設計するかもしれない。
“マーケティング”の定義にとらわれるな
西口:それが西井さんの型、というわけですね。
西井:今のはまあ適当ですが、リアルな商売も上から下までデジタルで、というのは今後さらに広がりそうです。たとえば、スマホアプリで注文できる中国の「ラッキンコーヒー」では、新規顧客に無料で1杯提供する代わりに、アプリインストールをしてもらうんです。
そこからしっかりCRMをかけることで、その1杯は回収でき、収支がプラスになる設計になっている。今までだと店頭の看板か紙のクーポンでキャンペーンをしながらも、大体一見さんになって逃してしまっていたんだから、ビジネスモデルの大きな転換ですよね。
西口:マーケティングというより、ビジネス構築の話になりましたね。というか、西井さん自身がマーケターという枠組みにまったく収まっていない。
西井:マーケティング職やマーケティングという言葉自体、なくなるかもしれないですね。シンクロでサービス開発も支援していますが、いわゆる旧来型のリサーチから商品開発、できあがったら広告を考えてという流れではなく、どれもβ版でひとまず出してユーザーにフィットさせていく作り方なので、じゃあ今までのマーケティングってどこにいったんだろう、という話になる。もはや、事業全体にかかる要素になっています。
西口:そう、僕も最近、マーケティングという言葉をなくしたほうがいいんじゃないかと思っていました。かえって、キャリアパスを考える邪魔にもなっているのかもしれない。
西井:そうかもですね。僕も対外的にわかりやすく言うならマーケターで、シンクロはコンサル会社となるんですが、実態は中長期で事業を成長させるためにならなんでもやる“なんでも屋”だし、それでいい。既存の枠組みや細かい領域にとらわれず、まずは全体を見てコミットできる場所に行ってみてもらえたら、と思います。