顧客時間のフレームワークも進化する
「モバイルショッパーマーケティング」に示唆を受け、顧客時間でパートナーを組む岩井琢磨氏と私は新しい「顧客時間」のフレームワークを構想しました(図2)。

顧客時間でいえば、「検討」「購入」をショッパー、「使用&消費」をユーザー(カスタマー)が担います。ショッパーへのオフラインチャネルとしては、以前からチラシやPOPがありましたが、最初からオンラインチャネルだけのAmazon Go、トライアルのように店舗にオンラインチャネルを持つ例が登場しています。
トライアルやAmazon Goは店舗のショッパーの状態を映像解析やスマートレジカートで直接的に把握する仕組みを導入していますが、モバイルアプリの場合は収集したデータから判断する必要があるでしょう。MUJI Passportの場合は、ショッパーかユーザーかを把握することを想定し、チェックイン機能を付けました。

いずれにせよ、これからの企業はブランドの価値と体験を提供する場をオンラインよりにするか、オフラインよりにするかを考えていかなくてはなりません。加えて、実施した施策を放置するのではなく、データに基づく継続的なコミュニケーションに展開する必要があります。そのためには、顧客IDと行動データを収集し、お客様とのエンゲージメントを確認しながらLTVを高めていかなくてはなりません。
私たちの新しいフレームワークは、モバイルショッパーマーケティングが再購買や推奨まで包含したプロセスであることを踏まえ、拡張したものです。マーケターにはショッパー向けのコミュニケーションとユーザー向けのコミュニケーションを明確にしてほしいですし、経営陣にはブランドが提供する価値と、お客様とのつながりから得られる情報を組み合わせ、会社を大きくしてほしいと思います。
もう一つ、モバイルアプリでショッパー向けマーケティングを行うとしたら、「App Annie」のような外部ベンダーが持つアプリデータの活用を勧めます。
ただし、外部ベンダーが提供してくれるアプリの利用状況データを、アプリ参入にあたっての市場調査や狭い意味でのアプリマーケティングのためだけに使っていてはもったいないです。
飲食業のようにショッパーとユーザーのペルソナが一致している業態と、スーパーのような業態はデータの使い方が異なるはずです。自社アプリの場合、ショッパーモードで使われているか、ユーザーモードで使われているかは手持ちのデータを分析すればわかりますが、競合アプリの利用状況を見て、他社はどうかを類推してみるとおもしろいインサイトが得られるかもしれません。そこで得た仮説を基に、自社のアプリをより良いものにすることができるでしょう。
再考してほしいモバイルアプリ
総括すると、モバイルショッパーマーケティングを推進するには、ショッパー、従業員、組織、モバイルテクノロジーの4つの組み合わせを整理する必要があります。マーケターは、ショッパーかユーザーかを区別したコミュニケーションができているかどうかを検証してみてください。経営陣に向けては、事業目標に対して、どんなデータをデジタルで収集できるか、どこまでお客様と深くつながれるかを検証することを提案します。
トライアルのように、いきなり巨額のテクノロジー投資を進める必要はありません。モバイルアプリを使えば、オンラインとオフラインを行き来するショッパーとユーザーの動きを把握することは可能です。デジタルチャネルでお客様を追いかけ回すのではなく、ユーザーの動きを幅広い接点で把握し、ブランド価値と提供する体験をコントロールすることでLTVの向上を考えてみてください。