これまでのスキルが通用しない、広告人の危機
また、事業の変換は「想い」だけではないことも明かした。
それは、産業構造の変化にある。世の中がデジタルシフトし、世界中から支持を集めるサービスは、GoogleやFacebook、Uberなど「世界インターフェース」と位置づけられると神谷氏は言う。企業のグローバル戦略も、海外へ拠点を広げてプロダクトを販売することから、オンラインの世界で消費者を中心に置き、共通したインターフェースで体験を提供することへ変化をしている。

このような変化のうねりは、もちろん広告業界も飲み込む。
「これまで広告は、情報を届けて認知を取りに行く役割でした。しかし、「世界インターフェース」の争奪戦の中では、グロースハックが中心になるだろうと考えています。すると、サービスのブラッシュアップやユーザーの満足度を高める改善を、想像以上のスピードで行わなければなりません。つまり、マーケティングはインハウス化していくのです」
これまでクリエイティブやストラテジック・プランニング系の広告人が強みとしてきたのは、広告によるコミュニケーションやクリエイティブ制作、上位レイヤーでのコンセプトメイキングスキルだ。しかし、これらのスキルだけでは、活躍の場が失われてしまうかもしれない。そう神谷氏は、広告人の未来に危機感を抱く。
成長が鈍化する広告市場、伸びていく新規事業開発
さらに神谷氏は、新規事業開発と広告業界の市場規模にも言及。
神谷氏が描く新規事業とは、国と国/業界と業界/生活者と生活者/生産者と生活者のように、今まで断絶していた物や関係同士をつなぐ、新しいインターフェースを作ることだ。
企業が業務をデジタル化するデジタルトランスフォーメーションの市場が急速に伸びていることは各種統計からも明らかになっている。神谷氏は、この中に新規事業開発の市場があると捉え、その成長性に目を向けているという。
かたや、広告市場は成長率が小さい。「デジタル広告は伸びている」とは、マスからの予算をスライドさせているだけにすぎず、市場全体は伸び悩んでいると指摘。そのため神谷氏は、「経営判断として、成長性が高い新規事業開発の中で戦うべきだと意志決定した」と語った。
20代では、「誰のために、何のために広告をやるのか」とわだかまりを抱いていた神谷氏。新規事業開発においては、どう考えているのだろうか。
その答えは、神谷氏がビジネスを行う意義の中にある。
WHITEはビジョンに「Make the World “Healthy” with Innovation」を掲げる。同社のミッションである「新しい、を価値にする」の達成は、新規事業を通して、過ごしやすく、ヘルシーで健全な社会を形作っていくことにつながる。そして、事業がスケールすると、企業にもプラスとなる。もちろん、神谷氏を含め関係者やユーザーの喜びにもなる。
このような、三方良しの状態をイメージできると、神谷氏の広告時代の悩みは晴れた。しっかりと自分のやるべきことを腹落ちして理解し、事業にまい進できているのだ。