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MarkeZine Day 2025 Retail

ブランディングとダイレクトをつなぐ、CRMを超えたCEMとは

「見せかけのロイヤルティ」を生み出していませんか?企業が今、CEMに取り組むべき2つの理由


CEMの設計に必要な3つのプロセス

 では、CEMに取り組む方法について解説します。はじめに全体像をお見せすると、以下3つのプロセスが存在します。

 1~3の順に沿って、内容を説明します。

1:顧客の理解

 まず、生活環境や年齢などによって様々な価値観やライフスタイルを持った顧客が、どのような理由で商品を選択し、利用しているかを把握する必要があります。そのために、まずアンケート調査を行い、価値観やライフスタイルに関する質問からクラスタリングを行います。

 そして、抽出したクラスタごとに購買行動やサイト行動,ブランド連想、満足度などの特徴を整理してペルソナ化していきます。当然、クラスタごとでブランドに対して持っているイメージや接触しているチャネルも違っています。そのような現状把握・整理を1のプロセスでは行っていきます。

2:ロイヤルティ育成プランの検討

 クラスタリングによる顧客の理解を経たら、次にそれぞれのロイヤルティをどのように育てていくかのプランを検討します。私がこの時に参照しているのは、ケラーのブランド・エクイティ・ピラミッドモデルです。

 ロイヤルティの育成ルートは「機能を評価する」左脳的なルートと、「イメージがフィーリングを生み出す」右脳的なルートがある、ということを表しています。

 このフレームをもとに、1で抽出したクラスタをプロットしていきます。その際、利用満足度やNPSといった回答からロイヤルティの高さを判断し、価値観やライフスタイルに関する回答から左右のどの位置にプロットするかを決めていきます。

 こうすることで、各クラスタのロイヤルティの状況を整理でき、どのように育成していくべきかがイメージできます。ここまでできたら、具体的な設計に入っていきます。クラスタごとにロイヤルティが高まった状態(持っている連想や態度)を定義し、その状態に近づけるためのコミュニケーションを、チャネルごとに定義していきます。

3:ロイヤルティを定量的に評価するための指標の開発

 最後に行うのが、施策を評価するための指標の探索です。CEMのPDCAを実現するためにはロイヤルティの変化を定量的なKPIに落とし、モニタリングできるようにする必要があるからです。

 そのために、ロイヤルティの高低と顧客の行動との相関をとりましょう。具体的には、顧客のサイト内の行動や購買行動を分析し、アンケートでとった好意や信頼といったロイヤルティと相関の強いものを洗い出していきます。

CEMにおける今後の課題

 これまで、ダイレクトマーケティングを行う企業の多くは消費者の好意度や信頼といった心理面についてはあまり考慮せずに施策を行ってきました。先述の3つのプロセスを踏むことで、抜け落ちていた部分がカバーできる可能性があります。

 ただ、こういった取り組み自体にあまり事例がなく、クライアントとプロジェクトを進める中で浮かび上がってきた課題もあります。最後はその課題をご説明したいと思います。

課題1:プランニング

 CEMというコンセプトでは消費者の購買意図の下に隠された態度や連想を取り扱います。つまり、マーケターにとっては考えるべき施策の幅が広がるということになります。

 ネット広告やSNS、オウンドメディアはもちろん、顧客を集めた野外イベントや社会貢献活動のアピールなど、プランに入れられる施策は多岐にわたります。それぞれに知見やアイデアが必要なのは当然のことですが、リソース的に自社だけでは賄えないことも増えてくるはずです。

 外部パートナーもうまく活用しながら、ロイヤルティの最大化を目指して整合性のあるコミュニケーション設計をしていく必要があります。

課題2:ロイヤルティ評価指標の拡充

 また、評価指標の開発も大きな課題です。これまでのデジタルマーケティングでは、消費者の態度変容を測定するという前提でデータのプラットフォームを作るということがあまり行われてきませんでした。

 企業によって状況は異なりますが、口コミやイベント応募や参加、コンテンツの閲覧の質と量など、一人ひとりの顧客と結び付けて取得されていないエンゲージメント指標は多くあります。

 今後はそういったデータをいかに取得し、顧客を理解するために貯蔵していくか、という仕組み作りが重要になってくるはずです。

 それが実現できれば、売上やLTVといった経営指標と顧客一人ひとりの行動の相関がよりはっきりと可視化され、経営と現場が一体となって顧客ロイヤルティの向上に取り組むことができるようになるはずです。

顧客との幸せな関係作りの参考に

 ブランドの繁栄のためには顧客との幸せな関係を築くことが必要不可欠と言ってよいでしょう。そのために顧客の体験を軸におき、コミュニケーションを組み立てていく手法がCEMです。

 ロイヤルティ向上の重要性は気付いているが、実際のマーケティング活動の中でどう取り組んでわからない、そんな課題を持った企業には、ぜひ本稿を参考にしてみていただければ幸いです。

 <参考文献>
・新倉貴士『消費者行動を考慮したブランド価値構築戦略』COSMETIC STAGE Vol.12, No.5(2018年)
・イタマール・サイモンソン 、 エマニュエル・ローゼン 『ウソはバレる―――「定説」が通用しない時代の新しいマーケティング』ダイヤモンド社(2016年)
・ケビン・レーン・ケラー『ケラーの戦略的ブランディング―戦略的ブランド・マネジメント増補版』東急エージェンシー出版部(増補版2003年)
・McKinsey&Campany "Customer Dicision journey"
https://www.mckinsey.com/business-functions/marketing-and-sales/our-insights/the-consumer-decision-journey

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この記事の著者

園部 武義(ソノベ タケヨシ)

 株式会社オプト マーケティングマネジメント部 部長。通販業界で10年間、新規顧客獲得、CRM改善、物流改善などの業務を経験した後、2015年オプト入社。2019年より現職。コンサルタントとして心理データと行動データの組み合わせによるユーザー育成戦略とPDCAの高度化を推進。リアルとWEBを横断した顧客育成戦略の立...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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MarkeZine(マーケジン)
2019/08/05 09:52 https://markezine.jp/article/detail/31531

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