ダイレクトマーケティングに感じる2つの疑問
マーケティングのデジタル化はPDCAの高度化をもたらしました。特に、ECを中心としたダイレクトマーケティング企業は膨大な購買データを所有しており、その活用も進んでいます。
購買履歴やWebページ閲覧などの行動ログから消費者の「購買意図」を見つけ出し、購買を後押しする手法(アプリのプッシュ通知、メール、リターゲティング広告など)が主流となり、データによる正確な効果検証と改善も可能になりました。
私は2005年頃から10年間、通販会社でマーケティングを担当していました。購買チャネルが電話やFAXからネットへと移り変わり、同時にマーケティングがデジタル化していくのを目の当たりにしています。
今はクライアントのマーケティング支援をする立場に立っていますが、外部から業界を見るようになり、感じるようになった疑問があります。そして、その2つの疑問が、企業が今CEM(Customer Experience/Engagement Management)に取り組むべき理由となります。
疑問1:行動の裏にある「態度」「連想」が考慮されてこなかったのではないか?
データによって「購買意図」が捉えやすくなった結果、マーケティングのPDCAは高度化しました。一方で、行動の裏に隠された心理の部分はどうでしょうか?
下図は、法政大学の新倉貴士教授が提唱されている消費者行動モデルです。行動データから読み取れる購買や購買意図はいわば「氷山の一角」であり、その下にはブランドや商品に対する「態度」「連想」が隠れていることを表しています。
高度化するデジタルマーケティングのPDCAにおいて、行動の裏にある「態度」や「連想」があまり考慮されてこなかったのではないか? というのが1つ目の疑問です。
消費行動がすべて「好意」や「愛着」とともに行われているとは限りません。「しょうがなく」や「なんとなく」で物を買うという経験は誰にでもあると思います。
そのような消費者が自社顧客の多くを占めているとしたら、自社の売上は「好意」や「愛着」を持たない購買、いわば「見せかけのロイヤルティ」に支えられていることになります。
その状態で、他社が似たような商品を市場に投下してきたとしたら? おそらく、「なんとなく」買っている顧客の多くは競合に流れていってしまうでしょう。
疑問2:ネットがマーケターの影響力を弱くしていないか?
イタマール・サイモンソンとエマニュエル・ローゼンは共著『ウソはばれる』(ダイヤモンド社)の中で、消費者の購買時の選択行動について「POM」というフレームワークで説明しています。
インターネットが登場する前、マーケターの力は絶大でした。プロモーションはテレビCMなどのマス広告が中心で、企業が情報をコントロールしやすく、消費者の判断にも大きな影響を与えていました。
翻って現代はどうでしょうか? 購買時の選択に大きく影響を与えているのはOther、つまり口コミなどの消費者が発信する情報や専門家の意見です。
広告で商品に興味を持ったとしても、商品レビューなどで実際に使った消費者のネガティブな内容の投稿を読めば、多くの人は購買を躊躇してしまうはずです。つまり、マーケターがもし誇大な広告を出したとしても、「ウソはばれる」というわけです。
インターネットの登場により、相対的に影響力の弱まったマーケターに今できることは何か? これが2つ目の疑問です。