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博報堂が提案するEC起点のマーケティング戦略とは?「生活者と企業活動の結び目」となったECビジネス

 多くの人にとってECは当たり前のものになりました。それに加え、多様なデータを取得できるECはマーケティング戦略において重要な立ち位置を占めるように。企業のECビジネスを支援してきた博報堂DYグループの専門組織「HAKUHODO EC+」 では、「これからのマーケティングはECビジネスが起点になる」と考えているそうです。ECの立ち位置がどのように変わってきたのか、そしてマーケティングがどう変わっていくのかを、書籍『EC起点の事業変革 博報堂式 ECから始める、これからのマーケティング』(翔泳社)から紹介します。

 本記事は『EC起点の事業変革 博報堂式 ECから始める、これからのマーケティング』(著者:HAKUHODO EC+)の「第2章 EC「から」始める、これからのマーケティング」から抜粋したものです。掲載にあたって編集しています。

ECは事業変革の出発点になる

「マーケティング戦略の出口」でしかなかったEC

 1990年代後半以降に台頭したECビジネスは、マーケターの間で「既存ビジネスで獲得できない『オンラインでしか買い物をしない人』にアプローチできる手段」として捉えられてきました。

 ECチャネルが「マーケティング」チャネルとして存在感を発揮するようになった現在も、こうした認識のマーケターは少なくありません。

 まずは、多くの企業の戦略策定の過程でECビジネスの戦略がどのように考えられているのかを見てみましょう。

ECビジネスについて議論されるのは、「最後の最後」

 ECビジネスは、マーケティング戦略議論の「最後の最後」に出てくる、「個別論点」の一つでした。経営戦略を基にしたマーケティング全体戦略が決定した後、さらにそのマーケティング戦略を「4P(Product=商品戦略、Price=価格戦略、Place=流通戦略、Promotion=販促戦略)」などの要素に分けた議論が始まります。

 その議論が終わってようやく、「店頭ビジネスやECというチャネルにPlace(流通戦略)をどう反映するか」という視点の下、ECビジネスの議論が始まります(図1)。

図1 従来のECの立ち位置(イメージ図)
図1 従来のECの立ち位置(イメージ図)

 つまり、ECビジネスは「既に決まったマーケティング戦略をトップダウンで反映する出口」にとどまっていたのです。

ECビジネスと店頭ビジネスの間にある壁

 ECビジネスの普及が進んでも、ECビジネスと店頭ビジネスの間の隔たりはなかなか埋まっておらず、まだまだECビジネスは「新領域」として見られることが多いです。そのため、ECビジネスの担当者が「店頭ビジネスの邪魔にならないように気を遣う」という心構えでマーケティング戦略を調整せざるを得なくなることが、往々にして発生します。

 例えば、「店頭に並ぶ商品の売上を守るため、スーパーやコンビニでECサイトに誘導するような施策はできない」「店頭価格を維持するために、ECサイトでの値下げは許されない」などの暗黙のルールが存在し、ECサイトで顧客を獲得するための打ち手不足が発生するという現象が頻発しています。

ECの立ち位置の変化

 そんなかつての「ECの立ち位置」は、生活者の買い物意識の変化に応じて変わってきています。

ECビジネスは、生活者と企業活動をつなぐ結び目

 「ECで買い物をする」という習慣は、生活者にとって当たり前のものになりました。図2で示されている通り、生活者の8割以上が1年に1回以上、ECで買い物をしています。その状況を踏まえると、「ECでの購買行動」を考えることなく、マーケティング戦略を議論することは困難です。

図2 直近1年間の年代別EC利用率
図2 直近1年間の年代別EC利用率
※直近1年以内にいずれかのECサイト利用ありと回答した割合
出典:HAKUHODO EC+「EC生活者調査」2023年6月より

 さらに、生活者の行動をデータとして取得でき、スピーディーな検証もできるECビジネスは、生活者を理解するための道標として重要な役割を果たします。「ECビジネスを用いて、いかに豊かな生活者知見を得られるか」が、企業活動全体が生活者に受け入れられるための鍵を握っています。「生活者と企業活動をつなぐ結び目」となったECビジネスは、もはや後回しにはできない重要論点となったのです。

「ECビジネスと店頭ビジネスの間にあった壁」は、もうない

 生活者の「チャネル・リテラシー」は飛躍的に向上しています。生活者は、「オンラインチャネルで買うブランド」と「オフラインチャネルで買うブランド」をうまく使い分けるようになっています。あるコスメブランドでは、顧客の半数以上が「最初だけ自分の目で品定めができる店頭 で購入し、あとは自動的に家に届くECで購入する」という購買行動を取っていることが、調査からわかりました。同様に、ファッションカテゴリや食品カテゴリのブランドでも、そうした購買行動を取るユーザーの比率が近年、増加しています。

 企業側が強く感じていたECビジネスと店頭ビジネスの壁は、生活者の中にはありません。生活者はECと店頭を自由に行き来しながら買い物を楽しんでいるのです。

ECビジネスがマーケティング戦略全体の起点となる

 以上の理由から、ECビジネスは「マーケティングのあらゆる領域戦略と結び付く、事業戦略全体の出発点」となりつつあります。この立ち位置の変化を踏まえ、ECビジネスを起点としたマーケティング戦略を立てることが、生活者の変化に対応する鍵となります(図3)。

図3 これからのECビジネスの立ち位置
図3 これからのECビジネスの立ち位置

 HAKUHODO EC+が支援してきた企業の中でも、ECビジネスがマーケティング戦略全体に影響を及ぼした例が増えてきています。

  • ECモールでテスト販売した商品がヒット。ECモールでのスピーディーなPDCAから得たマーケティング戦略と売上実績を活かして店頭展開された
  • ECサイト会員を巻き込んで新商品開発プロジェクトを実施。SNSから人気に火が付き、全社を代表するヒット商品になった

 HAKUHODO EC+では、「これからのマーケティングは、ECビジネスを起点として考えていくものになっていく」と考えています。

  • 「ブランド戦略を踏まえて、ECを作る」のではなく、EC『から』ブランド戦略を考える
  • 「全社データ戦略の実行に役立てるため、ECを使う」のではなく、ECビジネスで得られたデータ『から』全社データ戦略を練る
  • 「店頭ビジネスに気を遣う」のではなく、EC『から』店頭ビジネスも巻き込んだブランド体験を創り出す

 こうした考え方のシフトが、ECビジネスを成功させるうえで重要です。

 ここでは以降、今後のマーケティングで必要になる、HAKUHODO EC+が考える「ECから始めるマーケティング」について、紹介します。

EC「から」始めるマーケティングとは?

「ECビジネスの中に閉じた議論」は最後にする

 「『ECから始める』って……感覚的にはわかるけど、どう実践するの?」  そう思った方もいらっしゃるのではないでしょうか。ここからは、「ECから始めるにあたり、今までの活動から何を変えればいいのか?」というポイントについて掘り下げていきます。

議論の順番を変える

 まず、「ECから始めるマーケティング」において重要なのは、「ECビジネスに閉じた議論は最後にする」ということです。具体的な例も交えながら考えてみましょう。

 ECビジネスにおいて、「どんなサイトデザインが望ましいか」「EC広告の勝ちパターンは何か」という戦術の実装や運用の論点(図4の2「実装フェーズ」「運用フェーズ」の論点)が構想フェーズの議論に先行して議論されることは、よくあります。これらの論点についてはノウハウが世の中に普及しており、考えやすいため、ついついこちらを先に議論してしまいがちです。

図4 あるべき「ECから始めるマーケティング」の思考経路
図4 あるべき「ECから始めるマーケティング」の思考経路

 しかし、そうした戦術の実装や運用に関する議論は「ECビジネスの中に閉じた議論」であり、そのまま議論を進めても、ECビジネスが事業戦略全体の起点となることはありません。この視点で議論を進めている限り、「ECはECだよね」と、経営戦略と遠いところにある領域として後回しにされてしまう状況からは抜け出せません。

 「顧客データの収集が目的化する」「ECで販売するブランドの好意が醸成されず、小さな枠の中でしか成長しない」などの、EC事業の失敗につながる歪みは、「ECに閉じた議論からスタートしていること」に起因しています。

 「戦略議論を経ずに、EC内の戦術を詰める」という手順から脱却することが、ECから始めるマーケティングを実践する第一歩となります。

議論の輪を広げる

 ECに閉じない戦略議論を行ううえで、議論に参加するメンバーも重要です。「ECビジネスと店頭ビジネスの間にあった壁」がなくなった今、ブランド戦略策定には店頭ビジネスに関わるメンバーを巻き込む必要があります。さらに、「事業成長において重要なポイント」を外さずにビジネス設計を行ううえで、情報システム部門やデータマーケティング部門と早期に議論を重ね、適切な優先順位決めを行う必要があります。

 「普段ECをメインで扱っていない人」をいかに巻き込めるかが、ECから始めるマーケティング戦略のインパクトの大きさを決めるのです。

戦略起点の事業運営

 「ECから始めるマーケティング」とは、「ECビジネス以外の領域も俯瞰した戦略起点の事業戦略を練り、事業運営の背骨にする」ということです。

 全社経営戦略を踏まえてECビジネスの戦略を考えるのではなく、「ECビジネスを中心に据えた企業成長」の絵を描くことから議論をスタートさせることが重要となります。

  • ECビジネスでどんな顧客を獲得できれば、企業全体が成長するか
  • ECビジネスを通じてどんな生活者洞察を得て、全社戦略に活かすか
  • ECビジネスと店頭ビジネスを組み合わせて、生活者にどんな体験を提供したいか

 こういったECビジネスを起点とする成長戦略(図4の1「構想フェーズ」の論点)を描き、ECビジネスを「企業活動と切り離せない事業」として運営していくことが、「ECから始めるマーケティング」を機能させる鍵となります(図5)。

図5 戦略起点の事業運営
図5 戦略起点の事業運営

「戦略起点の事業運営」を実現するプラニングフレーム

「戦略起点の事業運営」を考えるための2ステップ

 ここからは、「戦略起点の事業運営を実践するためにどんな論点を検討すればいいのか」を見ていきます。

 「戦略起点の事業運営」は、大きく「戦略立案」と「戦術立案」という二つのフェーズに分けられます(図6)。ステップ1の「戦略立案」では、「事業変革の中心としてのEC事業」の土台を作ります。ここで重要になるのは、「中長期的にマーケティング戦略全体にどう影響を与えるか?」にこだわる経営者的な視点です。続くステップ2の「戦術立案」では視点を切り替え、徹底的に「生活者に受け入れられるEC事業」を追求します。

図6 戦略起点の事業運営を実現するプラニングフレーム
図6 戦略起点の事業運営を実現するプラニングフレーム

 このような「戦略起点の事業運営」を実践することで、EC事業から「新規事業の種」や「新ターゲットの発掘」など、マーケティング戦略全体をアップデートするきっかけを生み出すことができるのです。

ステップ1:戦略立案

 戦略立案は、「チャネル戦略」「事業基盤戦略」「事業指標設計」の三つの要素に分けて考えることができます。このフェーズでは、経営者の目線に立って、他事業とのシナジーや中長期的な事業成長を見据えて戦略を検討することが重要です。

チャネル戦略:EC起点で、チャネル横断のマーケティング戦略を立てる

 前節で触れた通り、「ECビジネスと店頭ビジネスの間にある壁」は、もはや存在しません。「チャネル横断で生活者にどんな体験を届けるか」を考え抜くことで、現代の生活者動態に即したビジネスを提供することができます。

 ECビジネスと店頭ビジネスを有機的に結び付け、EC起点でチャネル横断の事業戦略を立てることで、生活者が「どこで買っても満足できる」ブランド体験を実現することが可能になります。そのためには、EC担当と店頭担当の部署が有機的に連携し、綿密なOMO(Online Merges with Offline)戦略を立てることが不可欠です。

 また、ECビジネスの中でも「自社ECサイトとECモールにどのような役割を持たせるか」を定義して、戦略的にチャネルを運用することが重要です。「商品認知を取るチャネルなのか、顧客を育成するチャネルなのか」によって商品の価格設計や、クリエイティブメッセージも変わってきます。

事業基盤戦略:フロント/バックエンドをつなぐ事業基盤戦略を立てる

 ECビジネスの事業基盤設計は、「失敗できない勝負所」です。一度導入したシステムを変更するにはコストも時間もかかります。事業運営の中で「これ、うまくいっていないな……」と感じても、そう簡単に方針を転換できません。

 ECカートシステムや物流パートナーの選定などの事業基盤戦略を立てる段階から、マーケティング観点とシステム観点を折衝した最適解を追求すべきです。最適解を導き出すため、フルフィルメント設計の工程をきめ細かく整理し、適切な関係者を巻き込んで合議体を作ることが重要になります。フロントとバックエンドを有機的につなぐための議論を重ねることで、「生活者の買いやすさ」を追求したフルフィルメント設計が実現されるのです。

事業指標設計:適切な事業指標を設定する

 立ち上げ初期に様々な費用がかかり、顧客のリピートにより売上を立てて徐々に成長するECビジネスは、立ち上げ初期の利益状態がどうしても悪く見えてしまいます。ここで耐え切れず、EC事業が真価を発揮する前に撤退してしまうと、先行投資した資本が丸々無駄になってしまいます。

 事業計画は、「事業の寿命を決める」と言っても過言ではありません。「初期投資型ビジネス」であるECビジネスの特性を理解したうえで成長性を正しく評価し、投資を行っていくことが重要です。HAKUHODO EC+は、様々な業態のクライアント企業の事業計画策定を支援してきました。その活動の中で、紋切り型で事業計画を描くのではなく、「その事業でどんな果実を得たいか」というビジョンを反映することが、事業計画では重要であることがわかってきました。

 事業計画だけでなく、個々の戦術を評価するうえでも、適切な指標設定が重要になります。戦術の目的に応じて、KGIやKPIを適切に設計することで、広い視点でのPDCAが可能になります。

ステップ2:戦術立案

 戦略立案のフェーズで「事業変革の中心としてのECビジネス」の土台を作ったうえで、生活者にECで買い続けてもらうための戦術を立案するフェーズに入ります。生活者がブランドに出会ってからECで買い続けるまでの心理変化を想像して、「適切なタッチポイントを設計すること」「リピート購買を生むための仕掛け」「ファンになるツボを押さえること」が、重要になります。

タッチポイント設計

 生活者の情報収集手段が変化する中、ECビジネスにおけるタッチポイント設計にも工夫が必要になってきています。

 ECモールは、「ただ買い物をするだけの場所」ではなくなり、「買いたいものを探したり、買った人の感想を確認したりする場所」としての側面も持つようになりました。

 さらに、SNSの普及によって商品やブランドの評判を容易に確認できるようになり、マス広告的アプローチだけでは生活者の心は動かなくなりました。SNSを通じてブランド体験を提供したり、ブランドの魅力を中立的な立場で発信したりする「エヴァンジェリスト」を活かしたマーケティング施策が、生活者の心を動かすうえで効果を発揮しています。

リピート購買を生むための仕掛け

 ECビジネスの生命線は、「顧客にリピート購買してもらうこと」です。しかし、定期コースに一度入ってもらえば、自動的に続けてくれるほど、生活者の心理は簡単ではありません。ただメールマガジンを配信するだけでは、日々大量の情報に触れている顧客は、振り向いてくれません。「商品を買い続けることで得られるメリット」を作り、それを適切なタイミングで顧客に伝えることが、リピート購買を生む秘訣です。

 メリットを伝えるチャンスは、生活者が商品を初めて買う前のタイミング、例えばプロモーション施策に触れた瞬間から存在しています。このチャンスを逃さず、早期から顧客に「もう一度買いたい」と思ってもらう仕掛けを設けることが、非常に重要となります。

 HAKUHODO EC+では、戦略コンサルタントと広告クリエイターがチームを組み、リピート購買を生む「コマースクリエイティブ」を追究しています。

長くファンでいたくなるツボ

 リピート購買の先にある目標は、「顧客にファンになってもらうこと」です。顧客が商品を知人に薦め、顧客同士で商品の魅力について語るようになり、マーケティング投資をせずとも事業が育っていくのが究極の形です。その状態に少しでも近づくための「ファンづくり」に関するヒントを、「コンテンツ」「コミュニティ」「データ」という三つの切り口で紐解きます。

 戦略立案のときとは視点を切り替え、徹底的に生活者の目線に立って考えることで、「生活者に刺さる戦術」を生み出すことができます。

 戦略立案・戦術立案を具体的にどう進めるかや、このプラニングフレームをチームで実行するための「問い」については、本書『EC起点の事業変革 博報堂式 ECから始める、これからのマーケティング』で具体例を交えてお伝えします。

EC起点の事業変革 博報堂式 ECから始める、これからのマーケティング

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EC起点の事業変革 博報堂式 ECから始める、これからのマーケティング

著者:HAKUHODO EC+
発売日:2025年3月12日(水)
定価:2,200円(本体2,000円+税10%)

本書について

本書では、急速に進化するEC(電子商取引)を取り巻く状況を踏まえ、マーケティングの基盤にECを置いた、新しいマーケティングの手法を解説しています。

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【AD】本記事の内容は記事掲載開始時点のものです 企画・制作 株式会社翔泳社

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2025/03/14 07:00 https://markezine.jp/article/detail/48633

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