新しい知識と知識の組み合わせからイノベーションが生まれる
安成:アカデミアの知識を取り入れていく上でのポイントはありますか。
西川:分野を狭めずに、様々な分野の知識を取っていくことですかね。自分の専門分野とは異なる知識を知る方が、新たな視点を得ることにつながります。同様に違う業界のことを知ることも大事で、自分にとって周知の事実でも他業界にとって当たり前でないこともよくあります。そこに課題解決の糸口が見つけられることもあるでしょう。
もちろん知識と知識を組み合わせていくセンスは問われます。知識は多いほど組み合わせの数は増え、組み合わせが多いほど新しいイノベーションが起こりやすいのです。なので、色々な論文を気軽に読んでいるうちに誰もが思ってもみなかった発想が生まれ、それが嬉しくなってまた論文を読んでみようと思うサイクルができるでしょう。
また、そうした前向きな話をもっと会社の人たちとすることで、いい影響が出てくると思います。シリコンバレーで働いている方に聞いたのですが、そこの人たちは自分がいつクビになるか分からない環境に置かれているので、常に新しいビジネスを考えていて、その話で盛り上がることが多いそうです。日本も昔より厳しい雇用形態になってきているのに、そういう話をしている人はまだ少ないですよね。
だからこそ、新しいアイデアやビジネスを思い付いたときに共感し合える仲間ができる大学院に皆さんがはまるのかなとも思います。会社の中でも、そうした環境が整っていくことで、イノベーションが生まれやすい土壌が作られていくでしょう。
いま副業が認められている会社も増えていますが、可能なら単に副業を始めるのでなく、知識を得ながら始められるものが良いですよ。そのほうが面白いですし、知識の組み合わせをするということでは、副業で異分野の知識を入れていくことも、研究しながら学ぶことも近しい意味を持つでしょう。そういう意味では副業も大事だし、研究も同じように考えられたら良いですね。
視点を広げるために大事なことは、繰り返しになりますが、新しい、全然分野の違う知識を入れていくことです。知識の組み合わせこそが、イノベーションが起こる源泉ですから。

安成:西川先生が編集委員長を務めている、『マーケティングジャーナル』も研究論文を掲載されていますよね。ここからも色々な知識が得られそうですね。
西川:『マーケティングジャーナル』は、1981年に創刊してから年4回、日本のマーケティング研究の水準を高める一助となることを狙いとして出してきたマーケティング研究誌です。創刊時から長年、日本マーケティング協会が発行していましたが、2013年より日本マーケティング学会が発行しています。毎号、テーマに基づいた特集論文や、先行研究を整理したレビュー論文、投稿査読論文、マーケティングケース、書評が掲載されています。
基本的にはビジネスパーソンにも役立つ論文を掲載していて、問題解決のヒントとなるような情報が満載なのですが、研究論文なので難しい用語や専門用語が使われることもあり、内容を難しいと思う方もいるでしょう。
そこで専門用語などを補いつつ、特集論文の概要や見どころなどを紹介する連載「マーケター必読!論文のすすめ」をスタートさせてもらうことになりました。そこを入り口に、MarkeZineの読者のみなさんに、実務に活かせる知識が沢山詰まっているアカデミアの論文を読むきっかけを提供していきたいと思います。
