加速するRaaS(小売のサービス化)のトレンド
小売とは全くの畑違いであるIT企業のクラスメソッドやサントリーのような飲料メーカーが実験的な店舗の運営に取り組むことを、私は良いことだと考えています。メーカーだからと言って、伝統的なチャネルだけでお客様とつながっている必要はないと思うからです。

現在、米国や中国では、Retail as a Service(以降、RaaS)と呼ばれる小売業のサービス化が急激に進行しています。RaaSとは、小売業の会社がこれまで獲得してきた膨大な顧客データ資産とテクノロジーを活用し、単に商品を売るだけでなく、顧客が必要とするであろう商品をパーソナライズして提案しいつでもどこにいても購入できるというサービスを提供するものです。また、データ資産を武器に、小売業としてメーカーにサービスを提供することも考えられます。前回紹介したTRIALも日本のRaaS志向形企業と呼べるかもしれません。
RaaSに積極的な企業の例としては、全米最大のGMSチェーンKrogerがあります。2019年1月に行われたNRF(the National Retail Federation)の基調講演で、KrogerのCEOである Rodney McMullen氏はテクノロジーパートナーのMicrosoftと共に進めるRaaS戦略の内容を紹介しました。
MicrosoftはKrogerのほか、WalmartやドラッグストアチェーンのWalgreensにも技術支援を行っており、店頭をデジタル化し、優れた場を作るトレンドが強まってきたと感じます。
男性向けアパレルの「Bonobos」やメガネの「Warby Parker」などのD2C(Direct to Consumer)ブランドを傘下に持つWalmartはもちろん、そのライバルのTargetもD2Cブランドと協業する動きを示しており、小売が小売に商品を卸すという仕組みも登場しています。
メーカーはお客様と直接つながる努力をすべき
この動きに対し、直接顧客との接点を持たないメーカーは取り残されてはなりません。メーカーも手をこまねいているわけではありませんが、前回お話ししたように、データや施策がユーザーモードに集中し、ショッパーモードに向けたマーケティングがおろそかになっているという問題を抱えています(もちろん、ショッパーモードばかりのデジタルマーケティングも困りものですが)。
組織も縦割りで、ブランド単位でしかデータがなく、データがあっても顧客理解が進まないことも課題です。先に紹介したサントリーの取り組みは、宝の山であるデータに向き合う必要性にいち早く気づいたメーカーが試行錯誤を始めた例と言えるでしょう。
店舗がデジタル化する中、メーカーが小売に対して自分たちの力を維持するには、お客様と直接つながるD2C化を進めていかなくてはなりません。その方法は、サントリーの「TOUCH-AND-GO COFFEE」の取り組みのように自らで挑戦するだけでなく、小売業からデータを提供してもらって取り組むことも選択肢の一つです。どちらを選ぶにせよ、小売の進化に対応し、お客様とつながることで、自分たちの商品を進化させることを考える必要があります。
BOSSブランドでできたということは、コーヒーだけでなく他の飲料ブランドでもできる可能性もあります。また、一度成功事例を作れば、他のブランドに横展開もできるでしょう。メーカーは小売を必要以上に気にするのではなく、D2CやRaaSへの取り組みを試してみてはどうでしょうか。それこそが、小生が提唱する優れた「場」づくり、Placeを重要視して、販路としてのChannelを通過型に終わらせないことにつながると思います。