ライフスタイルを制覇する「スーパーアプリ」の台頭
東南アジアにおけるライドシェア企業といえば、Grabの名前が真っ先に挙がると思いますが、今やGrabはライドシェアのみならず、食事やeコマース、個人間送金等、生活者のライフスタイルに幅広く浸透するビジネスを展開しています。
これはGrabのプロモーション動画です。日本語字幕ではありませんが、Grabによるライフスタイルサービスの変化がよくわかると思います。
Grabはリリース当初は自動車のライドシェアだけを提供していましたが、現在は様相を変え、ライフスタイルサービスを1つのアプリで提供するようになっています。複数の機能をシームレスに提供する形式を「スーパーアプリ」と呼び、中国のWeChatアプリもスーパーアプリの代表例です。

このGrabのビジネス規模はどの程度拡大してきているのでしょうか。App Annieのデータによると、毎月新規で300万人〜400万人がアプリをダウンロードし、今や6,000万人を超えるMAUをもっています。そしてその利用人数はいまだに増え続け、確実に東南アジアの生活者の生活インフラになりつつあることがデータからもわかると思います。
日本企業が存続・成長する鍵の所在
ライドシェアサービスの動向は、「自動車産業のディスラプト」や「タクシー産業の衰退」といった直接的な影響が及ぶ企業や業界だけが把握しておけばいいものではありません。
テクノロジーの進歩によって、ビジネスがデジタル化され、もしくはデジタルを活用してさらに高度化されていく現在では、国境を越えたビジネス展開は容易になっています。様々なビジネスの顧客接点の多くはアプリ化され、そのアプリは世界中にリリースすることができる環境が既に整っているのです。
一方で日本の現状を振り返ると、厚生労働省の人口動態統計によると、2018年の合計特殊出生率は1.14 (3年連続減)で、2018年の出生数は過去最低の 91.8万人でした。さらに経済産業省が作成した資料(PDF)によると、僅か30年後の2050年の生産年齢人口比率は52%にまで下がると予測されています。この生産年齢人口は30年前は約70%だったことを見ると、いかに日本国内には生産力が残っていかないかが理解できるでしょう。
加えて『OECD.Stat』を基に経済産業省作成した購買力平価ベース(2010年米国ドル基準)によると、2017年の時間当たり実質労働生産性の対米国比水準はG7中最下位。つまり、今後の日本は現在よりも生産活動を担う人口の絶対数がさらに減っていくばかりか、1人あたりの生産性も依然低いままという状況が容易に想像できるわけです。
そうなると日本国内の生活者向けのビジネスをやっている企業はどうやって存続し、さらに成長をしていくことができるのでしょうか? その1つの解が、「グローバル展開」です。
日本が先進的にマーケットをリードしてきた時代は過ぎ去りました。各国でデジタルビジネスを成功させている企業の強みを参考にするだけではなく、その国々の生活者が日々何に触れ、どのようなサービスに時間とお金を投下しているのか、データで把握することが重要です。そしてデータの中でも、モバイルデータの重要性は今後より高まります。
まずはこのモバイルというビジネスプラットフォームを、どう取り込めば自社のビジネスが加速するのか、そして生活者がどのようなモバイルサービスに触れているのかを先入観を排除して定量的・客観的に把握して、自信をもった意思決定につなげていくことが求められるのです。