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ライドシェアサービスの世界競争に取り残された日本は、何を逃したのか?

ライドシェアの世界競争に取り残された日本は、何を逃したのか?

 では、次にマーケットの広がりについて見ていきましょう。皆さんはライドシェアビジネスに付随するビジネスとして、何を思い浮かべるでしょうか? 日本においては、ここ3年ほどの間で、Uber Eats(ウーバーイーツ)が急速に普及してきました。特に東京都心部においては、Uber Eatsのデリバリーケースを背負った配達クルーを毎日にように目にします。

 Uber Eatsは、レストランやカフェを運営する企業にとっては、配達に必要な従業員や配送設備(自転車・バイク・保冷保温のデリバリーケース等)を自社で持つ必要がありません。注文が入る度にUber Eatsが契約した配達クルーがお店で商品をピックアップし、注文したお客さんの指定した場所まで届けてくれるため、今まで固定費としてかかってしまっていた設備投資費や人件費をかけずに出前をすることができるようになります。

 フードデリバリーのサービスは今や日本国内にも様々ありますが、Uber Eatsの成長は目をみはるものがあります。詳細の数字は伏せますが、App Annieによると2017年1月から2019年6月の2年半で、単月の新規DL数は17.4倍の規模で獲得しており、単月のMAUは17.3倍に成長しています。まだ一部の都市でのみサービス展開しているにも関わらず、です。

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 日本人が好んでUber Eatsを使うようになることで、Uberには大量の日本人の食に関するデータが集まります。どんな人が、いつ、何を検索し、どの場所を配達先として保存し、配送料や配送時間と購買のボーダーラインはどのあたりなのか、何がどうなると買わずに離れていくのか、日によってどんな食事を好むのか、配送エリアとの関連性を紐解くデータ、特に「オーダーが入る前の生活者の振る舞いや嗜好」に関するデータを手に入れることが可能になっています。

 フードデリバリーサービスはマッチングサービスです。そしてマッチング精度を上げるために何よりも重要なのはデータです。生活者に対し、適切なタイミングで適切なメニューを適切な配送時間で、さらに適切な価格で提案をして購買を促すことができるようになります。

 Uberはライドシェアサービスのプラットフォーマーですが、生活の中で多くの時間を占める「移動」と、人が生きる以上必ず必要とする「食事」において、世界中の生活者のデータを手にしているのです。2019年7月18日に開催されたSoftbank World 2019の基調講演において、ソフトバンクの孫社長がしきりに「データ」というキーワードを話していましたが、その基調講演においてもUber、DiDi、Grab(グラブ)といった出資先のライドシェア企業のことを「AIとビッグデータの企業」と表現していたことが印象的でした。

データを持つ企業こそが評価される

 先日、Uberは第1四半期の決算で約10億ドルの赤字を出したことが、多くのメディアで報じられました。現在のUberの収益構造を見ると、売上原価を構成する主な費用は、ドライバーへの支払とインセンティブ報酬です。さらに販売費および一般管理費の対売上高比率が非常に多く、特にセールス・マーケティング費用に多くを費やしてプロモーションに多くのお金を投じていることがわかります。

 一部メディアでもアナリストが述べていますが、過去5年間黒字を出したことのないUberが、100年の歴史を誇るGMよりも高い時価総額となっています。その理由として多く挙げられているのが「完全自動運転の実現」です。有人ドライバーが不要になれば、売上原価は激減すると見込まれます。そうするとドライバーへの報酬の代わりに自動運転システムの運営費用が売上原価に加算されますが、その金額は現在のドライバー報酬に比べれば格段に小さくなり、さらにドライバーへの報酬は変動費ですが、ITシステムは固定費であるため、規模の経済によって単位当たりのコストが下がっていくというメリットが見込まれます。

Uberに限らず、モバイルを中心に据えたビジネスは、市場からの評価を得て資金を集めやすい。2018年にニューヨーク証券取引所とNASDAQの市場に上場したIT企業は48社あったが、これらの合計評価額のうち、モバイルを中心に据えた企業の評価額が95%を占めた。

 完全自動運転の時代が来た時に、いかに生活者に対して最大限効率化された顧客体験を提供できるか。膨大なデータから導き出された精度の高いレコメンドや移動ルート、一人ひとりに最適化された食事の時間や内容の提案等、これらを高い精度で実現していくためにも、生活者のあらゆるデータを取得することが最重要課題だとわかるでしょう。

 ちなみに、App Annieのデータによると、AndroidのUber Eatsアプリには22個のSDKが入っています。SDKというのはソフトウェア開発キットのことで、アプリをアプリたらしめるために必要な「部品」です。アプリにSDKを入れることで、たとえば広告の効果を測定することができるようになったり、画像表示をスムーズにできるようになったり、決済ができるようになったりします。AppleやGoogleといったメジャーな企業が提供しているSDKが多く入っていますが、広告系だとTune、決済だとPaypal、パフォーマンス管理ではFabrtic、レイアウトエンジンはFacebook Yogaといった具合です。

 参考までに、日本のフードデリバリーサービスの雄である出前館アプリにも20個超のSDKが入っていますが、すべて外資企業が提供しています。これはすなわち、日本のサービスであっても、外資企業にデータが流れているということです。日本のIT企業は、データの重要性をより強く認識し、SDKをモバイル事業者に提供するというビジネスを検討してもよいのではないでしょうか。

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ライフスタイルを制覇する「スーパーアプリ」の台頭

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この記事の著者

向井 俊介(ムカイ シュンスケ)

App Annie Japan 代表
国内IT企業を経て、世界最大の企業情報企業である米Dun And Bradstreet、外資系ITリサーチ・コンサルティング企業である米Gartnerにてセールス職として様々な業種を横断的に担当し、経営者レベルとのビジネスを推進。App Annieにおいては、15年以上のセールス経験の大...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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MarkeZine(マーケジン)
2019/08/23 09:00 https://markezine.jp/article/detail/31771

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