3.人肌感のあるストーリー:脳みそに引っかかりをつくる
実は「過度な演出」と「飽くなき自己ツッコミ」は比較的カンタンで、一定の型を覚えてしまえば再現性は高い。
さらなる唯一無二の独自性を出すために、もうひとつできることがある。それが「人肌感のあるストーリー」だ。ストーリーと聞くと「壮大なサーガ(物語)」が必要なのかと身構えるかもしれないがそんなことはなく、個人的なエピソード(思い出、記憶、意見、逸話)を添える程度でかまわない。
「人が驚くような波乱万丈な人生経験なんてないよ……」と落ち込まなくていい。大切なのは「血の通った生身の人間が紡いだ話」と感じさせることであり、珍しさや希少さは重要ではない。内容はかぶっても、物語はかぶらない。最大の目的は「読者との距離を縮めて信頼感を築く」ことだ。業務用コーヒー豆でいうと……。
<Before>
「豆の鮮度は細心の注意でもって厳重に管理しています」
これでは無機質で、何も心に残らない。「それくらい、どこでもやっている当然のことでは?」と思われることを、さも立派なことのようにドヤ顔で語られても読み手は困惑する。

そこで、こんな“人肌感”を加えるのはどうだろう?
<After>
「築地市場で育った創業者から叩き込まれた、コーヒー豆における“本当の鮮度と見せかけの鮮度”を分ける決定的要因」
創業者の実家は江戸末期から続く築地の鮮魚卸業だった。「鮮度に異常な執着を見せる両親」の背中を見て育った創業者は、自身がコーヒー卸業を興すときに父から“忘れられない金言”を授かった。それは4代続く今も受け継がれている……、的な感じだろうか(内容は思いつき)。
●築地の卸店も使うオーバースペックな業務用冷蔵庫で厳重に温度管理された豆
・効率を考えるとしなくてもいいけど、それでもやめない理由。
・鮮度勉強会を毎月社内で開催しており、今では生鮮食品業者が視察に訪れるほど。
・「刺し身のつもりでコーヒー豆を扱え」が社訓。
……といった話があれば使えるかもしれない。
え? そんなに都合よく気の利いたエピソードなんて落ちてない、だって?
最近いいなと思った「人肌感のあるストーリー」を紹介しよう。銀座に本店を構える天ぷら屋、「ハゲ天」の屋号の由来だ。
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『ハゲ天のこだわり/「ハゲ天」の名前の由来』銀座ハゲ天のサイトより 1928年、東京の九段で天ぷら屋を始めた時の屋号は「たから」。ところが初代の店主、渡辺徳之治は完全なハゲ頭だったので、お客様からは「ハゲの天ぷら屋、ハゲ天」としか呼ばれず、翌年銀座に進出する時に思いきってこの「ハゲ天」を屋号にしました。その後、お客様に覚えていただきやすい名前としてこの屋号は広く浸透し、現在に至ります。
これを読んで、フフッと笑ってしまったのではないだろうか。

凡人は「本人の努力ではいかんともしがたい身体的特徴を店名にするなんて差別的だ、不謹慎だ、名誉毀損だ、ヘアーハラスメント(そういうハラスメントがあるかどうかは知らない)だ」と騒ぎ、優れたマーケターは「待てよ、これはネタに使えるぞ」とほくそ笑む。ストーリーはこんな狭い隙間に潜んでいるのだ。マーケターなら、何が起きても「タダでは起きない」心意気は持っていてほしい。

「ハゲ天」の屋号の由来ストーリーの素晴らしいところは、
1.蔑称を店名に据えるという大胆不敵さ
2.初代店主の気風(きっぷ)の良さ
3.顧客の声に耳を傾ける素直さと柔軟さ
4.庶民的で親しみやすい雰囲気
というイメージを出すことに成功している点だ。そこまで考えていたのなら、慧眼の持ち主と感心する他ない。

【ポイント】
NG:内容さえ間違っていなければそれでよし
OK:感情を揺さぶって、より深く&印象づけて伝える
独自性のあるコンテンツを作りたいのなら、
1.過度な演出
2.飽くなき自己ツッコミ
3.人肌感のあるストーリー
のどれかを取り入れてみよう(できるなら全部やってもいい)。
ただ、「これって、あくまで中山(筆者)の個人技にすぎないんじゃないの?」という意見もあると思う。独自性の発揮の仕方は人によって異なるし、様々な方法論や思考法がきっとあるはずだ。
そこで次回は、BtoBコンテンツマーケに造詣が深いWeb制作会社であるベイジの代表 枌谷さんと「独自性あるコンテンツを作るためにどんな工夫をしていますか?」について対談した内容をお届けする予定だ。
