「選り抜く採用」から「育む採用」へ:ナーチャリングの必要性
リードジェネレーションによって採用ターゲットを振り向かせることに成功したなら、次は「ナーチャリング」によって志望度を上げていくプロセスです。デジタルマーケティングにおけるナーチャリングとは「見込み客に1対1で向き合い、継続的なアプローチで購買意欲を高めていくこと」を指しますが、リクルートメント・マーケティングでは「1対1での継続的なアプローチによって見込み候補者の志望度を引き上げ、本選考への後押しをすること」を目的にナーチャリングを行います。
これからの採用活動は、外部データベースからかき集めた母集団を選別する従来型の「選り抜く採用」ではなく、採用ターゲットに「働きたい企業」として認知してもらう「育む採用」への方針転換が求められています。見込み候補者とこうした関係値を育むために押さえておきたいキーワードが、「ソフトセレクション」と「タレントプール」です。これらの要素を実践することで、採用における候補者の量と質を向上させられるのです。

ソフトセレクション:候補者と企業の相互理解を進める
「ソフトセレクション」とは、企業と候補者が相互理解を深めるきっかけとなるプロセスであり、採用のマーケティング化を加速させている最大要因です。従来型の「集めて落とす」採用プロセスでは、候補者の志望度や転職希望時期、仕事選びの価値観などの要素が一定ではないため、選考の場で自社アピールを行ったところで候補者の志望度が向上するかどうかは未知数でした。しかし、求人倍率の高まりによりエントリー効率が悪化している以上、こうした確率論的アプローチだけでは現場の疲弊は免れられません。
そこで有効なのが、母集団形成のための選考エントリーよりも一つ手前の指標として、「ソフトセレクションへのエントリー数」をKPIに置くこと。ソフトセレクションの具体的な手法としては、「カジュアル面談」や、「自社イベント/ミートアップの開催」、「学生の長期インターンシップ」など様々なやり方があります。いずれも選考プロセスの外部にありながらも、候補者と社員が触れ合う重要な機会となり、ここでターゲットの意向度を上げることができれば採用におけるマッチング精度をぐっと高めることが可能です。

ソフトセレクションで接点を持ったターゲットには、相手のステータスや志望度に合わせて継続的なアプローチをかけることが肝要です。具体的には、「転職タイミングを待つ間の温度維持」「社員との接触機会を増やす」「疑問・不安の解消」などと、目的別にコミュニケーションを使い分ける必要がありますが、そのすべてのコミュニケーションを人事がカバーするのは到底不可能です。事業部を積極的に巻き込みつつ、人事が指揮者となって全行程のプロジェクトマネジメントの役割を果たすことが、これからの採用の現場では求められることになるのかもしれません。
タレントプール:継続的なアプローチを可能にするデータベースを整備する
タレントプールは、過去に接点を持った見込み候補者をリスト化したデータベースです。タレントプールを整備すると、理念共感・スキルマッチ・カルチャーフィットといった条件を満たしつつも、転職希望時期が合わなかったり、接触時点では希望するポジションを容易できなかったりした有望な人材に継続的なアプローチを行えるようになります。
ウォンテッドリーの自社採用においては、雇用条件やスキルマッチなどを示す「共通ジャッジ項目」と、互いのビジョンのマッチ度合いを示す「会社への共感度」の2軸によって見込み候補者を評価した上でタレントプールに追加しています。このように分類することで、個々のタレントプール人材の特性に合わせてアプローチ方法や目的を使い分けることできるのです。

また、タレントプールを効果的に運用するためには、「アプローチタイミングの最適化」が欠かせません。候補者情報を管理するATS(Applicant Tracking System)やSNSを活用すれば、候補者の状況に合わせたメッセージングができるようになります。リクルートメント・マーケティングの本場であるアメリカでは、GMやヒルトンホテルのような大企業を中心にタレントプールへのエントリーシステムを自社サイト上に開設しており、ユーザーの行動ログの蓄積や、定期接点の確保の円滑化に成功しています。情報登録の心理的ハードルが高い採用領域でも、継続的なリードナーチャリングの接点を創出するための工夫はまだまだたくさん残されていそうです。
「ソフトセレクション」と「タレントプール」は、見込み候補者との継続的な接点を創出しつつ、マッチング精度を高める科学的なアプローチを可能にします。これにより、「エントリー数」や「採用数」といった短期的な指標を最大化するのではなく、長期的な視点を持ってマッチング精度を高める採用に取り組むことができるのです。