SHOEISHA iD

※旧SEメンバーシップ会員の方は、同じ登録情報(メールアドレス&パスワード)でログインいただけます

MarkeZine Day(マーケジンデイ)は、マーケティング専門メディア「MarkeZine」が主催するイベントです。 「マーケティングの今を網羅する」をコンセプトに、拡張・複雑化している広告・マーケティング領域の最新情報を効率的にキャッチできる場所として企画・運営しています。

直近開催のイベントはこちら!

MarkeZine Day 2025 Retail

ニューロマーケティングでさらに深める顧客理解

広がりを見せるニューロマーケティング/背景にはビジネスにおける”客観的証拠”の重要性が

客観的証拠の重要性が、普及の背景に

 大倉教授によると、近年ニューロマーケティングが広がりを見せている背景には、様々な要因が関係しているという。ひとつは、脳波測定のデバイスが低価格化したことだ。

 「かつては生体信号を計測するために数百万、数千万円するような機械を揃える必要があり、企業がマーケティングのために取り組むにはハードルの高いものでした。しかし現在は、たとえばニューロスカイという企業が2万円以下の簡易脳波計を提供しています」(大倉教授)

ニューロスカイが提供している脳波センサー付ヘッドセット(同社Webサイトより)
ニューロスカイが提供している脳波センサー付ヘッドセット(同社Webサイトより)

 また大倉教授は、デバイスの低価格化以上に普及に影響を与えている要因として、客観的な証拠に基づいたマーケティングの重要性が高まっていることを挙げる。

 「かつての日本は欧米などと比較して、人間関係やそれにともなう感情が、マーケティング上の判断に強く影響する傾向がありました。決裁者が『可愛がっている部下が開発した商品だから、発売しよう』と決定を下したり、公私ともに顧客と付き合うことで注文をとったり、というケースは少なくなかったはずです。

 しかしモノを作れば売れるという時代は終わり、ECの普及などで購買スタイルも大きく変化しました。企業の考え方が、消費者の目線で本当に良い製品やサービスを創出していこうそのために証拠に基づいたマーケティング活動を行おう、という方向にシフトしつつあるのです」(大倉教授)

 さらにSNSやクチコミサイトの普及によって、商品の使用感や効果といった情報も消費者の間で広く共有されるようになっている。そのためどんなに良いプロモーションを行っても、利用時の満足度がともなっていなければ、手にした本人がリピートしないだけでなく、その商品を買おうかどうか迷っている顧客までも失うことになりかねない。

 こうしたユーザービリティ重視の流れを受け、多くの企業でリサーチやシミュレーションを通じて消費者の反応を確かめ、改善を重ねながら商品開発を行うことが一般的になりつつある。ニューロマーケティングへの関心の高まりには、こうした時勢も強く影響している。

ニューロマーケ実施の具体的な流れ

 ニューロマーケティングを実施する際、具体的にはどのような手順があるのだろうか。ニューロマーケティングの基本的な考え方は「人がある刺激を心地よく感じているのか、それとも不快に思っているのかを、計測した信号値によって推定していく」というものだ。シンプルで刺激の差が大きい実験であるほど、明確な結果が得られるという。

 実験は一般的に、以下のフローに従って実施される。

ニューロマーケティングの実施フロー
1. 調査設計
2. 被験者の選定
3. 実施
4. 結果の解析
5. 解析結果の解釈

 生体信号を用いた実験とともにアンケートやインタビューといった定性的な調査も実施し、両方の結果を踏まえてマーケティングの判断を行う場合も多いそうだ。

調査設計&結果の解釈は適切か?落とし穴に注意

 企業がニューロマーケティングを取り入れる際に留意すべき点についても、大倉教授にうかがった。

 まず調査設計のフェーズ。調査人数被験者の選定が重要なのはもちろん、一度の調査によって結論を出して良いのか日数を分けて複数回行うべきなのかといった観点についても、慎重に検討する必要がある。

 また多くの被験者は脳波計を付けることでストレスを感じてしまうため、それに慣れる時間を適切に設定しなければ、正しい結果は得られない。

 「コンピューター科学の領域には、『Garbage in, garbage out』、つまり、入力が正しくなければ出力も正しくならない、という言葉があります。意味のない実験をやって意味のない結果を出してしまい、それを基にマーケティング活動を行ってしまうのは危険。調査を適切にデザインし、正しい結果を導くことが重要です」(大倉教授)

 さらに、出てきた結果の読み取りも慎重に行うことが求められる。専門的な知識の不足による間違いはもちろん、自社にとって都合の良い解釈をしたくなる誘惑にも注意が必要だ。大倉教授は「結果を見てどこまでのことが言い切れるのか、別の見方はできないのか、その刺激と結果は一対一で対応するものなのかといった点について、慎重に検討することが必要です」と呼び掛けている。

次のページ
パッケージ開発に活用 VR/ARとの合わせ技も

この記事は参考になりましたか?

  • Facebook
  • X
  • Pocket
  • note
ニューロマーケティングでさらに深める顧客理解連載記事一覧

もっと読む

この記事の著者

蓼沼 阿由子(編集部)(タデヌマ アユコ)

東北大学卒業後、テレビ局の報道部にてニュース番組の取材・制作に従事。その後MarkeZine編集部にてWeb・定期誌の記事制作、イベント・講座の企画等を担当。Voicy「耳から学ぶマーケティング」プロジェクト担当。修士(学術)。東京大学大学院学際情報学府修士課程在学中。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

この記事は参考になりましたか?

この記事をシェア

MarkeZine(マーケジン)
2019/09/12 08:00 https://markezine.jp/article/detail/31851

Special Contents

PR

Job Board

PR

おすすめ

イベント

新規会員登録無料のご案内

  • ・全ての過去記事が閲覧できます
  • ・会員限定メルマガを受信できます

メールバックナンバー

アクセスランキング

アクセスランキング