「可処分精神」に着目し、タイアップを再定義
――初めに、高野さんのお仕事について教えてください。
高野:トライバルメディアハウスのマーケティングレーベル「Modern Age/モダンエイジ」を統括しています。音楽やテレビなどのエンターテインメント業界のマーケティング支援と、音楽やエンターテインメントを活用したブランドのマーケティングやコミュニケーションを支援してきました。
その経験から、ブランドづくりにおける音楽やエンタメとのタイアップには大きな可能性を感じていて、マーケターは音楽やエンタメがもつ力を、もっと戦略的に活用できるはずと考えています。
――戦略的な活用とは、どういうことでしょうか。
高野:前提として、私たちは「情報大爆発」と言われる社会を生きていて、企業のメッセージはますます届きにくくなっていますよね。このためマーケティング活動は、生活者の心の中をいかに占有するかという勝負、つまり「可処分精神」の奪い合いになりつつあるのです。
「可処分精神」は、SHOWROOM代表の前田裕二さんがインタビュー記事(東洋経済オンライン「前田裕二『可処分精神を奪い合う時代が来る』」)の中で発した言葉ですが、私はこれを「つい、そのことばかり考えてしまうもの」、「自分の人生においてなくてはならないもの」、そして「生きる活力になるもの」と解釈しています。
これまで私たちマーケターは、いかに生活者の可処分時間や可処分所得を獲得するかについて議論を重ねてきましたが、コンテンツがあふれている今、より上位にある「精神」を押さえることが重要になってきているということです。
――確かに心を占めることができれば、結果として時間もお金も費やしてもらうことができますね。
高野:はい。しかしそこに到達できるブランドはほとんどないのが現実です。実際に「つい、そのことばかり考えてしまう」企業やブランドを挙げてほしいと言われても、なかなか浮かばないのではないでしょうか。
一方、アイドルや音楽、漫画や映画などエンタメの多くは、そもそもファンの可処分精神を占めることで成り立っていて、人を惹きつけ、熱狂させる強い力をもっています。
とあるアーティストのファンであれば、そのアーティストの活動をSNSで毎日チェックし、ライブ発表があれば、ファンコミュニティを回遊して情報収集や情報交換をして、ライブチケットやグッズを手に入れる。まさに「つい、そのことばかり考えてしまう」状況で、限られた時間とお金を費やしています。
ブランドと音楽・エンタメがタッグを組むこと自体は、目新しいことではありません。しかし可処分精神の獲得という観点に着目し、時代性を踏まえながら、タイアップの意義を構築し直すことで、双方にとってより高い価値を生み出していけると考えています。