デジタルマーケと自販機チャネルの変革を担う「Coke ON」
――2016年にCoke ONアプリをローンチされた時の背景を教えてください。
「Coke ON」が始まった背景は2点あります。1つは、日本コカ・コーラ自体のデジタルマーケティングの変革、もう1つが自動販売機(以下、自販機)チャネルのマーケティング変革です。これら2つの課題認識は以前から存在し、「Coke ON」自体の基本的な構想やアイデアはリリースの3~4年前からありました。
まず当社のデジタルマーケティングが直面していた課題についてお話しします。2007年に「コカ・コーラ パーク」というオウンドメディアを立ち上げ、そこを起点にミニゲームやキャンペーンなどを提供しつつお客様にコカ・コーラの取り組みに触れていただいていたのですが、時間が経つうちにユーザーの固定化、新規ユーザー数の伸び悩みが課題になってきました。
理由として考えられるのは、これまでWeb上で占いやゲームを楽しんでいた方が、スマホやSNSの隆盛と共にそちらに時間を費やすようになったこと。つまり、デジタルのなかでの時間の使い方が変わってきたことが挙げられます。
それと同時に、もう1つの自販機チャネルについても活性化したいという背景がありました。実は当社は、コカ・コーラブランドの製造業だけでなく、直営の自販機というチャネルを通じた小売業としての顔があります。
デジタルマーケティング、そして自販機チャネルを改めて活性化したいという思いがあり、この2つをテコ入れするために生まれたのが「Coke ON」というわけです。
――なるほど、だから「Coke ON」は当初から自販機というオフラインチャネルの体験価値向上を主眼に置いているわけですね。
そうですね。当初から、デジタルとオフラインでのサービスを融合したサービスを目指していて、最近では自販機以外のドリンク体験も視野にユーザー体験をより向上させていく、「Coke ON カメラ」のような試みも始めています。
「Coke ON」開発の経緯に話を戻しますと、「Coke ON」開発に至る前から自販機で様々なイノベーティブな取り組みを行っており、その成果を受けて「Coke ON」が開発されたという流れもあります。
――自販機では具体的にどのような取り組みがなされていたのですか。
いろいろありますが、特徴的な分野でいえば、実はかなり前からキャッシュレス化や電子マネーへ取り組んできました。たとえば2002年には、NTTドコモさん、伊藤忠商事さんと共同で「Cmode(シーモード)」をリリースしました。これは自販機を使い続けてもらうことを目的にした会員向けサービスで、自販機用のプリペイドマネー「Cmodeマネー」も展開していました。決済方法は自動販売機にQRコードをかざす方式で、今思えばかなり時代を先取りしていましたね。
そういう素地があり、2014年には一部の自販機でFeliCa型電子マネー(プラスチックカード)を使ったポイントカードサービスも始めました。こうした試みにおいて成功を重ねるなかで、今回の「Coke ON」が生まれたわけです。
自販機は1つの小売店
――自販機イノベーションの集大成がCoke ONにつながったというのはおもしろいですね。
自販機は、お客様が好きな時に好きな商品を簡単に購入できる、いわば1つの小売店です。自販機を日本市場に投入して57年になり、その間に様々なイノベーションがあったのですが、同時期に起こった小売業界の変化に対しては一歩遅れを取っている側面があったことも事実です。
自販機はこれまで、コールド・ホット機能を1台の機械に搭載したり、省エネ化を進めたり、また同じスペースで納入商品数を増やしたり、通信機能を通じた在庫管理など、様々な変革を行ってきました。
それに対し小売業のイノベーションでいえば、まずコンビニという新たな業種の浸透があります。その後、1989年にヨドバシカメラさんがポイントカードを展開し、やがて様々なチェーン店舗で共通ポイントを蓄積できるTポイントのようなサービスも出てきました。
元々は「近くにあって、豊富に商品を揃えています、便利で早くお買い物ができます」というのが自販機の価値提案でしたが、いわゆる一般的な小売店舗の魅力が増すなか、自販機も小売店の一種としてみた時に、お客様の期待に応えきれているのだろうか、という課題意識がありました。
こうした課題意識があるなか、スマートフォンの普及やBluetoothを始めとするテクノロジーの進歩があったこと、そしてCmodeから積み重ねてきたノウハウが加わり、新たなイノベーションを展開可能になったことが「Coke ON」に踏み出す一因だったと思います。