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マーケティングを経営ごとに 識者のInsight

「憧れを身近に」して売上3倍に ゴディバ ジャパンが挑むデータドリブン経営

ブランド接触と購買のフリークエンシーを向上

――たしかに、「憧れ」と「身近」は一般的には相反する概念です。これを共存させているのが、ゴディバというブランドだと。

シュシャン:そうですね。端的にお話しすると、憧れの源泉となるのはクオリティです。我々の場合、それは妥協のないレシピから生まれます。ゴディバには世界で6人のシェフがいまして、そのうちの一人のフランス人シェフは日本に長く在住し、日本市場や日本人の嗜好を十分に研究して商品開発を進めています。

 その上で、身近さ、つまり買いやすいチャネルや商品ラインアップを充実させています。日本は特に、大きなブランドだと百貨店のみといったワンチャネル展開が多いですし、ゴディバも長らくそうでした。ですがご指摘のように今は自分用の需要も増え、年間のブランド接触のフリークエンシー向上を考えると、その需要を取り込まない手はありません。するとおのずと、お客様にとってより日常的な接点であるコンビニエンスストアに進出したり、駅構内にドリンク中心の店舗を展開したり、という打ち手に至ったのです。

――プレミアム性が高いブランドが販路や商品展開を拡大すると、手軽になる分、ブランド棄損につながることも多いと思います。そうなっていないのは、先ほどのビジョンを徹底されているからでしょうか?

シュシャン:そう考えています。実際、いくつかのマーケティング調査と並行して3年前からNPSも取っていますが、3年前よりNPSは高いんですね。拡販した結果、ブランドは強くなったのです。

 販路やユーザー層の拡大とブランド維持の両立は、たしかに難しいことです。ただ、たとえばブランドもののバッグや時計は「どこで買うか」も含めたブランド体験が顧客の心を捉えますが、ゴディバは食べ物なので、「おいしさ」が何より重要です。クオリティを前提にすれば、どこで買おうと「さすがゴディバだな」と感じていただけて、ブランドを保ったまま販路や商品の多角化が可能だと考えました。

 クオリティに妥協しない分、結果としてどのチャネルでも、チョコレートやアイスなどのカテゴリー内で最も高い価格になっています。それでもリピートやレコメンドにつながっているのは、価格に見合う満足感を提供できているからだと思います。

顧客がシームレスに動く今 部門の分断はナンセンス

――では、経営におけるデジタル戦略についてうかがっていきます。今回、なぜCDOのポストを新設されたのですか?

シュシャン:我々が今オムニチャネルでビジネスを展開しているのは、お客様のタッチポイントが増え、カスタマージャーニーがとても多様で複雑になっているからです。一方で、ECの会員制度で蓄積している顧客データや、また既存の店舗売上データなども掛け合わせて、精緻なデータマーケティングを実現できる環境も整ってきました。先ほど述べたように経営体制の刷新もあったので、今がデジタルトランスフォーメーションを強く推進し、ビジネスをさらに飛躍させる好機だと。そのために、経営陣にそれを統括する人が必要だと考えたのです。

――なるほど。CDOはまだ新しい職務なだけに、企業によって業務の範囲は様々ですが、宮野さんの担当領域は?

宮野:マーケティングコミュニケーション、EC、CRM、デジタルトランスフォーメーション、IT……の大きく5つの領域です。ITも範疇となると、たとえば工場のシステムの最適化なども含まれるので、先日もベルギーの工場まで行ってきたりしました。

――CMO兼CDO兼CIO、といった感じですね! 元々そのようなオファーだったのですか? それともシュシャンさんと話し合う中で決まったのでしょうか?

宮野:後者です。これまでも何度かCMOやCDOのお声かけをいただきましたが、役割は会社によって全然違っていました。私としては、移るからには自分が貢献しうる最大のパフォーマンスを上げたく、でも担当範囲が狭いとそれが難しいと経験上感じていたんです。

 現代のようにライフスタイルが多様化していると、今日店舗で購入したお客様が、今度は何らかの理由でECで買う、といったことが当たり前になりました。そうすると企業の側がオフラインとオンラインを分けたり、マスメディアとデジタルが連動していなかったりするのはナンセンスです。どのお客様にどのタイミングでどんなメッセージを発信するのがブランド価値の向上になるのかを考えると、企業都合の組織の分断はプラスにならないと思っていました。

マーケティングとITを統合しビジネス貢献を最大化する

――おっしゃるとおりですね。これまで、そういった組織の分断で悩まれることも多かったのでしょうか?

宮野:ときどきありましたね。マスとデジタルは、今いろいろな企業で課題になっていますが、マーケティングとITの壁も大きかったです。会社全体をデジタルトランスフォーメーションする過程で、ビジネス貢献のためにマーケティングオートメーションツールやDMPを入れたくても、アセスメントをITが担当して反対されてしまう、とか。

 今回は明確な業務範囲が固まる前のオファーだったので、担当領域についての話し合いを申し出ると社長がすぐに応じてくれ、組織の改編も含めて今の担当領域を設定してくれました。先ほど、お客様のタッチポイントが増えたからオムニチャネル化しているという話がありましたが、元々社長がお客様を起点にビジネスを展開していたので、よりよいブランド体験の提供に組織体制や権限がマッチしていないなら変えようという考えは腑に落ちましたし、とても共感しました。

シュシャン:企業視点ではない、お客様に寄り添った組織づくりは経営の方針でもあったので、二つ返事でOKを出しました。デジタルという大きな傘の下に、マーケティングやCRMやECはともかくITまで統合するのは他社にはあまり例がなく、困難もともないます。ただ、我々は商品だけでなく経営も、他社をベンチマークするのではなく独立した考えで進んできたので、躊躇はありませんでした。

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さらに3倍の売上へ向け各段階のKPIを検証

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この記事の著者

高島 知子(タカシマ トモコ)

 フリー編集者・ライター。主にビジネス系で活動(仕事をWEBにまとめています、詳細はこちらから)。関心領域は企業のコミュニケーション活動、個人の働き方など。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

安成 蓉子(編集部)(ヤスナリ ヨウコ)

MarkeZine編集部 編集長
1985年山口県生まれ。慶應義塾大学文学部卒業。専門商社で営業を経験し、2012年株式会社翔泳社に入社。マーケティング専門メディア『MarkeZine』の編集・企画・運営に携わる。2016年、雑誌『MarkeZine』を創刊し、サブスクリプション事業を開始。編集業務と並行して、デジタル時代に適した出版社・ウェブメディアの新ビジネスモデル構築に取り組んでいる。2019年4月、編集長就任。プライベートでは2児の母。

★編集...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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MarkeZine(マーケジン)
2019/09/25 13:00 https://markezine.jp/article/detail/32003

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