ARグラスが変えるリテールの世界
アップルのARグラスの登場によってコンシューマーの体験はどのように変わるのだろうか。
既に登場し利用されているテクノロジーから、その未来を予想することができるかもしれない。近いデバイスの1つとして挙げられるのが「マジックリープ」だろう。
米フロリダで2010年に設立されたスタートアップ。AR・MRに対応したヘッドセットデバイスを開発しており、2018年8月に開発者向けバージョン「マジックリープ・ワン」をローンチした。

最近NTTドコモから2億8,000万ドル(約300億円)を調達するなど、日本でも知名度は高まりつつある。
海外ではいくつかのリテールブランドがマジックリープを活用した新しいショッピング体験を生み出す取り組みを始めている。
H&Mはマジックリープを活用したプロモーションを実施。プロモーション用に用意された部屋の中でマジックリープを装着し、特定の服やパネルを見ると、それらに関連した動画や情報が現実世界に投影されるというもの。商品に紐付くデータがその商品を見ただけで表示されるため、検索する手間を省き、ショッピング体験をより快適にできる可能性が示唆されている。試験的な取り組みであったが、ビジネスでの応用も検討される可能性があるという。
米Eコマース大手Wayfairもマジックリープの活用で新しいショッピング体験の創出に取り組む企業だ。
同社が取り組んでいるのは、ネット検索から商品の3Dモデルを使ったサイズ・色の確認までをシームレスに行うことができるショッピング体験。AR空間に投影されたWayfairのWebサイトで欲しい商品を検索、気になる商品を選ぶと、その3Dモデルがあらわれ、部屋に配置し、大きさを確認することができる。

IKEAのARアプリと似ているが、AR空間に投影されたWebブラウザを使える点、片手で操作できる点などヘッドセットならではのアドバンテージがある。
現時点でマジックリープ・ワンのヘッドセットはディスプレイ専用で、コンピューテーションやレンダリングは「ポータブルライトパック」と呼ばれるデバイスで行われており、ヘッドセットは常に接続されている必要がある。価格も2,000ドルを超えており、このままでは広く普及するのは難しいと考えられる。しかし、マジックリープはこれまでに多くの資金を調達しており、アップルのようにコア技術を買収し、クオリティを保ちつつ消費者市場向けにシェイプアップしたモデルを開発することも可能となるはずだ。
冒頭で紹介したガートナーのレポートは、現在注目を浴びる5Gの普及もAR利用を加速させる要因になると予想している。AR空間における多人数利用を実現し、リアリスティックなCG映像を生み出すリアルタイムレンダリング技術が利用できるようになるからだ。これによりAR空間におけるソーシャル性やイマーシブネスを高めることが可能となる。ARの魅力が高まれば自然と利用者も増えてくることが予想される。
クックCEOが予想するような「AR社会」はいつ到来するのか。アップルだけでなく、Android向けAR開発キットARCoreを開発するグーグルや最新スマホモデルにおいてAR機能をフィーチャーしたサムスンなど主要プレーヤーの動きから目が離せない状況が続きそうだ。