実験2:30代以下では紙のDMに「温かみ」を感じる
実験2は、実験1でわかった「紙のDMがクーポン使用率を高める」「世代により紙のDMに対する評価が異なる」ことを受け、プロジェクトチーム内で議論を重ねて見出した「温かみ」「限定感」「労力」という3つのキーワードに基づいて設計。2018年3~4月に、前回同様に送付方法と順番を変えた3グループ(A、B、C)にアプローチし、事後アンケートで「温かみを感じるか」「自分向けだと感じるか」「郵便を出すのは手軽だと感じるか」といった項目を聞いた。
その結果、全体的には紙とEメールで「温かみ」に差はなかったものの、実験1と同様に30代以下と40代以上に分けると、30代以下では「紙のほうが温かみを感じる」という有意な差が認められた。また限定感や労力については、郵便を出すのが手軽だと感じる人は印象差がなかったが、「郵便を出すのは労力がかかる」と感じる人は「紙のほうが限定感や特別感がある」という結果が得られた。
「これを論文からひも解くと、自分で組み立てた家具により愛着を持つ『イケア効果(Norton et al. 2012)』や、手作りや手作業の製品をより高く評価する『ハンドメイド効果(Fuchs et al. 2015)』等の研究が当てはまると考えます」と外川氏。手間がかけられているものに対して、人は高い価値があると感じるわけだ。
奥谷氏は以前、オイシックスブランドにて、おせち料理のプロモーションで紙のDMを活用したという。紙ならば、物理的なモノが残る「保有効果」によって、他の家族の目にも触れることも期待できると指摘する。
「加えてイケア効果のような“労力”への着目も、非常に興味深い。今、生活者は複数のデジタルチャネルに疲れている部分もあるので、愛着という観点でアナログチャネルを有効に使えるのでは」(奥谷氏)
実験3:ロイヤリティの高い顧客にはEメールは響かない
そして実験3は、2018年12月~2019年1月にかけて実施。ここでは「富士フイルムのフォトブックのロイヤル顧客かどうか?(過去の購入額)」という軸で、対象者を「高ロイヤルティ」~「低ロイヤルティ」の4つに分け、さらに「紙→Eメール」「Eメール→Eメール」の2パターンで送り分けた計8グループを設定し、アンケート回答を比較した。
「ここでも、意外な結果が得られた」と外川氏。アンケートで「特別感」や「企業側の好意、気遣い」を感じたかを問うたところ、紙を送った群ではロイヤルティの高低によって各設問に差がなかったが、Eメールのみの群では高ロイヤルティのグループで「特別感」「好意」「気遣い」のいずれも評価が低かったのだ。
これは、どう読み解けるのだろうか? 外川氏は「おそらく、高ロイヤルティのグループは『自分はフォトブックの優良顧客である』と認識しているのだろう」と指摘する。だからこそ、Eメールのみでのコミュニケーションでは紙に比べれば心に響かず、ある種“裏切られた”ような感覚さえあったのでは、と推察される。
特別オファーであるクーポンは、本来喜ばれてしかるべきとも言える。だがEメールのようなライトなタッチポイントが増えた結果、関与度の高い人にはむしろEメールが響かないという事態が起きているのだろう、と奥谷氏。「逆に、紙でのアプローチなら高関与・低関与に関わらずフラットなアプローチができるという示唆もあって、おもしろいデータ」と評する。