分析精度を上げると別の問題が!担当者が抱えるジレンマ
東氏は、企業がデータ活用に苦戦する別の要因として、分析担当者が抱えるジレンマについても説明した。
分析と一言で言っても、その目的や手法は異なっている。天気予報や画像認識のように「高い精度で結果を出すこと」の比重が高いものから、その結果に至った理由が重視されるものまで様々だ。
たとえばHR領域では、個々の社員の属性や行動遍歴、満足度調査などのデータを基に分析することで、退職する確率の高い社員を導き出すことができる。しかし実務担当者が本当に知りたいのは、なぜその社員は退職する確率が高いのかというインサイトだ。分析結果に至るまでのロジックの説明に、分析担当者は苦戦する。
「シンプルな分析業務は仕組みを説明しやすい一方、精度が落ちてしまいがちです。逆に、精度が非常に高い複雑な予測モデルを作ると、今度は実務担当者への説明が難しくなります。どんなに高精度な分析を行っても、その要因を説明できなければ、『現場では使えないね』と突き返されてしまうため、モデルの精度と説明のわかりやすさのバランスに悩むデータサイエンティストは多いようです」(東氏)
では、企業が必要とするデータ分析のソリューションとは何か。東氏はこれまでの説明を踏まえ、データサイエンティストの人材不足を補えること、データからパターンやルールを容易に導き出せること、そして導き出した結果を理解しやすい形で提供できることを挙げた。
BIと機械学習の良さを兼ね備え、発見を助ける「拡張分析」
続いて東氏は、企業が抱える問題を解決に導くアナリティクスとして注目されている「拡張分析(Augmented Analytics)」という概念を紹介した。
拡張分析(Augment Analytics)とは、BIツールを用いて試行錯誤で見つけていたルールを、機械学習が自動的に発見・提示する仕組みだ。迅速なインサイトの提示によって人間の気づきを“拡張”し、意思決定を支援する。
一般にBIツールを用いて売り上げ予測を行う場合は、仮説を立て、それを検証するプロセスが必要だ。しかし複雑で大量なデータから適切な仮説を立てるのは、簡単なことではない。
一方、機械学習を用いて売り上げ予測を行う場合、膨大なデータや複雑な項目の組み合わせによって数値が算出されるため、予測の精度は上がる。しかし「なぜその項目を組み合わせた予測が当たったのか」という要因の説明が難しく、現場の担当者から理解を得られにくい。
そこで、BIツールと機械学習の良さを兼ね備え、担当者の理解を助けるのが拡張分析だ。機械学習がデータからルールを見つけ、担当者が知らなかったインサイトを説明してくれる。
拡張(Augmentation)の概念は、世界的にも注目されている。ガートナーはこの領域について、「2021年に2.9兆ドルのビジネス価値が生まれる」と予測しているほか、IBMはAIを一般的な「Artificial Intelligence(人工知能)」ではなく、「Augmentation Intelligence(拡張知能)」と捉え、人間の知識を拡張し、人間を助けるコンピューターの仕組みと定義している。
「BIなどの分析ツールでプルダウン操作をしながら予測を行っていくことは、簡単そうに見えて意外と難しい。近い将来、自然言語で『直近1年間について、月別の東日本地域の商品別売り上げを、折れ線グラフで出してください』と指示を出せば、AIがそれを理解してアウトプットしてくれるようになると言われています。機械学習やAIは、人の意思決定を代替するのではなく、支援する存在になるのではないでしょうか」(東氏)