データ分析人材の9割超「インフォメーションアナリスト」とは
「機械学習・BIの融合による“データ民主化”の実現」と題された本セッション。ブレインパッドの東一成氏は、AIや機械学習技術の発展によってデータ分析の環境が豊かになる一方、大量に蓄積されたデータの使い道に頭を悩ませている企業も多いと指摘する。その原因として、社内の分析ニーズに対応するための人材が、バランスを欠いていることが挙げられる。
東氏によると、企業におけるデータ分析の人材は次のように分類できる。
まず、学生時代に統計や数学、物理を専攻していた「データサイエンティスト」と呼ばれる人材だ。彼らはアルゴリズムの解析や画像認識技術の活用といった複雑で専門性の高い分析業務に、半年から1年ほどのスパンでじっくり取り組んでいる。しかし、データ分析が必要な業務に携わる人材のうち、彼らの占める割合は全体の1%にも満たない。
次に、ITの知識やデータを活用したビジネスの実務経験が豊富な「シチズンデータサイエンティスト」と呼ばれる人々。学術的な専門性はもたないが、GUIが提供される機械学習ツールやマーケティングオートメーションなどの自動化ツールを駆使して、毎月、毎週実施される施策に使える予測モデルを大量に作り続ける。しかし、この層の割合も約3%と非常に少ない。
企業内で最も高い割合を占めるのは、「インフォメーションアナリスト」と呼ばれる層だ。彼らは表計算ソフトやModern BIなどの比較的簡易なツールを用いて、データから傾向を読み取る。また、データサイエンティストやシチズンデータサイエンティストが中長期的な業務に従事するのに対し、インフォメーションアナリストは、「明日の会議で必要な考察とアイデアを用意する」など、喫緊の課題解決や意思決定を行っている。
東氏は、社内の97%以上を占め、頻繁に意思決定を求められる「インフォメーションアナリスト」の生産性向上こそが、企業の利益に貢献するカギになると主張した。
分析精度を上げると別の問題が!担当者が抱えるジレンマ
東氏は、企業がデータ活用に苦戦する別の要因として、分析担当者が抱えるジレンマについても説明した。
分析と一言で言っても、その目的や手法は異なっている。天気予報や画像認識のように「高い精度で結果を出すこと」の比重が高いものから、その結果に至った理由が重視されるものまで様々だ。
たとえばHR領域では、個々の社員の属性や行動遍歴、満足度調査などのデータを基に分析することで、退職する確率の高い社員を導き出すことができる。しかし実務担当者が本当に知りたいのは、なぜその社員は退職する確率が高いのかというインサイトだ。分析結果に至るまでのロジックの説明に、分析担当者は苦戦する。
「シンプルな分析業務は仕組みを説明しやすい一方、精度が落ちてしまいがちです。逆に、精度が非常に高い複雑な予測モデルを作ると、今度は実務担当者への説明が難しくなります。どんなに高精度な分析を行っても、その要因を説明できなければ、『現場では使えないね』と突き返されてしまうため、モデルの精度と説明のわかりやすさのバランスに悩むデータサイエンティストは多いようです」(東氏)
では、企業が必要とするデータ分析のソリューションとは何か。東氏はこれまでの説明を踏まえ、データサイエンティストの人材不足を補えること、データからパターンやルールを容易に導き出せること、そして導き出した結果を理解しやすい形で提供できることを挙げた。
BIと機械学習の良さを兼ね備え、発見を助ける「拡張分析」
続いて東氏は、企業が抱える問題を解決に導くアナリティクスとして注目されている「拡張分析(Augmented Analytics)」という概念を紹介した。
拡張分析(Augment Analytics)とは、BIツールを用いて試行錯誤で見つけていたルールを、機械学習が自動的に発見・提示する仕組みだ。迅速なインサイトの提示によって人間の気づきを“拡張”し、意思決定を支援する。
一般にBIツールを用いて売り上げ予測を行う場合は、仮説を立て、それを検証するプロセスが必要だ。しかし複雑で大量なデータから適切な仮説を立てるのは、簡単なことではない。
一方、機械学習を用いて売り上げ予測を行う場合、膨大なデータや複雑な項目の組み合わせによって数値が算出されるため、予測の精度は上がる。しかし「なぜその項目を組み合わせた予測が当たったのか」という要因の説明が難しく、現場の担当者から理解を得られにくい。
そこで、BIツールと機械学習の良さを兼ね備え、担当者の理解を助けるのが拡張分析だ。機械学習がデータからルールを見つけ、担当者が知らなかったインサイトを説明してくれる。
拡張(Augmentation)の概念は、世界的にも注目されている。ガートナーはこの領域について、「2021年に2.9兆ドルのビジネス価値が生まれる」と予測しているほか、IBMはAIを一般的な「Artificial Intelligence(人工知能)」ではなく、「Augmentation Intelligence(拡張知能)」と捉え、人間の知識を拡張し、人間を助けるコンピューターの仕組みと定義している。
「BIなどの分析ツールでプルダウン操作をしながら予測を行っていくことは、簡単そうに見えて意外と難しい。近い将来、自然言語で『直近1年間について、月別の東日本地域の商品別売り上げを、折れ線グラフで出してください』と指示を出せば、AIがそれを理解してアウトプットしてくれるようになると言われています。機械学習やAIは、人の意思決定を代替するのではなく、支援する存在になるのではないでしょうか」(東氏)
データ民主化を加速する「BrainPad VizTact」の機能と効果
ブレインパッドがリリースした「BrainPad VizTact(ブレインパッドビズタクト)」は、拡張分析の概念を利用して生まれた分析ツールである。機械学習による高精度の分析結果が、非専門家でも理解しやすい自然言語とビジュアルによって可視化される。精度は追及しつつも、操作性や透明性に重きを置いている点が特徴だ。
東氏は、「BrainPad VizTact」を導入した某ファーストフードチェーンの事例を紹介。同社は従業員の在職期間が短いことに悩んでおり、年間30,000人もの退職者のうち、在職期間1年未満の人数が21,000名、90日未満の人数が6,600人というデータを保有していたものの、打ち手につながる分析ができずにいた。
そこで「BrainPad VizTact」にデータを流し込んだところ、「20歳以上かつ現役大学生の場合は、在職期間が平均より129日長い」というルールが導き出された。このルールを基に、採用活動の最適化を図っているという。こうしたルールを短時間で発見できることは、HRだけでなく、広告の効果測定や商品・顧客分析、グロースハックの領域でも心強い味方になる。
機械学習・AIなどの分析技術が高度化する中、専門家と非専門家のギャップが縮小し、誰もが技術の恩恵を受けられるデータ民主化の世界。それが同社の目指すところだ。東氏は「エクセルやBIツールを前にルールを見つけられずにいる方や、『このデータから何かを発見してほしい』と言われて困っている方に、『BrainPad VizTact』をお勧めしたいです」と述べ、講演を結んだ。