以前のコーポレートサイトが使いにくかった根本的な理由
構築にあたって、様々な分析を行ったそうだが、実際にユーザーのWebサイト内での行動を解析したところ、当時のWebサイトではユーザーの振る舞いが期待通りではないことも明らかになった。
たとえば直帰率を見ると、月間40〜50%がそのまま直帰してしまう。ひどい時には直帰率が60%に上ることもあった。これが意味するのは、「日立製作所のコーポレートサイトが、ユーザーにとって、情報収集に貢献していない」という事実だ。実際、先述したように家電情報の収集をしようとしたユーザーが多かったが、検索キーワードを見ると、家電の品名や型番、マニュアルが上位にあることが判明したという。
米山氏がまず目指したのは、抜本的な情報構造の見直しだ。昨今の企業サイトは、会社の情報であればコーポレートサイトに集約し、製品の情報であれば別にドメインを取って専門サイトを立ち上げ、そちらに製品情報を集約スタイルが多い。
これに対しそれまでの日立製作所のWebサイトでは、情報が適度に分散せず、すべてを1つに集約させており、そのせいでユーザーは欲しい情報をかえって探しにくくなっていた。これに対し、米山氏が掲げた目標が「シンプル化」だ。
もう1つ、「情報を探しにくい」という面を解消するために模索したのがレコメンド機能だ。ECサイトでは普通に使われているレコメンド機能だが、この機能が搭載されているBtoBサイトは少ない。最も、ECサイトの場合、過去の購買履歴や閲覧履歴をもとにユーザーが欲する情報を提示するが、BtoBのコーポレートサイトの場合、そうした蓄積データをもとにレコメンドを行うのが難しいという側面もある。だがもし実現できれば、ユーザーにとって快適なWebサイトになることは間違いない。
これと同時に、ユーザーが情報迷路に迷い込まないよう、知りたい情報の元へ、ページベースで誘導する仕組みを実装する検討も進めた。
匿名ユーザーへのパーソナライゼーションを実現するMarketo Engage
目指すべきコーポレートサイトの方向性が徐々に固まりつつあるなか、課題となったのは、「やりたいことを実現するため、どんなデジタルツールを導入するべきか」ということだった。そこで社内の営業部門から紹介されたのが、アドビ システムズが提供する「Marketo Engage」だったという。
米山氏に先立ち登壇したアドビ システムズ マルケト事業担当 営業本部の水野雅夫氏によると、Marketo Engageは文字どおり「エンゲージメント」をコンセプトに、企業とユーザーとの長期的な関係構築を支援するソリューションだという。「より具体的にいえば、顧客体験を通して、企業の売上や利益向上に貢献することを謳っています」と水野氏は説明する。
Marketo Engageのオプション機能の1つが「Webパーソナライゼーション」だ。これは、アクセスしてきた匿名ユーザーに対し、ドメインなど把握できる情報を活用して、関連性の高いコンテンツやパーソナライズドメッセージを届ける機能のこと。だが、これはあくまでオプション機能であり、Webパーソナライゼーションを利用するには、MAツールのMarketoの導入が必要だった。
「私たちはブランド・コミュニケーション部門なので、営業活動を支援するMAツール本体は管轄外でした。ただ、やりたいことが実現できるのでどうしようか悩んでいたところ、日立製作所のIT分野の営業部門で、デジタルマーケティングに取り組んでいる部署があることを知り、そこに相談したのです」(米山氏)
米山氏が描いたのは、次のようなMarketoの利用イメージだ。コーポレートサイトでは、Marketo EngageのWebパーソナライゼーションを利用し、訪問してきたユーザーにより快適で、欲しい情報や事業部窓口に誘導できる仕組みを整える。一方受け手である事業部門では、Marketo本体を導入し、コーポレートサイトから誘導されてきたユーザーをとらまえて、事業部のマーケティング・営業活動につなげていく道筋を作る。こうすることで、コーポレートサイトのミッションである「事業にも貢献する」ことが実現できると考えた。
2018年7月に、アドビ システムズから話を聞いた米山氏は、Marketo Engage本体の管理・運営をIT分野の営業部門に担わせ、Webパーソナライズ機能をブランド・コミュニケーション部本部が担うという分業体制で、自部門や関係部門を説得。予算も捻出し、同年10月からの導入を即断したという。