日本のリアル店舗は年間5,000店舗が閉店
続いて木崎氏は、小売業界を取り巻く状況について海外動向を交えながら解説した。
リアル店舗が直面している課題のひとつに、店舗で実物を確認し、ネットで購入するショールーミング化現象が挙げられる。これによりリアルではモノが売れなくなり、収益化に苦戦する店舗も出てきている。実際に、日本のリアル店舗の数は年間約5,000店舗のペースで減少しており、逆にEC店舗の数は約5,600店ほど増加しているそうだ。

ではECはこのまま発展を続け、リアル店舗を食い尽くしてしまうのだろうか。この疑問に対して木崎氏は、中国ネット大手のアリババの創業者、ジャック・マー氏が提唱する「ニューリテール(新小売)」の概念を紹介。マー氏は「純粋なECは今後10年、20年で消滅し、オンラインはオフラインに、オフラインはオンラインへと相互に溶けていく」と説明しているそうだ。
ニューリテールの概念を取り入れた有名な事例が、リアル店舗とEC倉庫が一体化した中国のスーパー「盒馬鮮生(以下、フーマーフレッシュ)」だ。ECで生鮮食品を購入すると店舗に注文が入り、スタッフが食品を袋に入れる。店舗の天井には買い物袋が通るレールが敷かれていて、そのまま配送センターにつながり、注文者の自宅へと届けけられる仕組みだ。
フーマーフレッシュの斬新な点は、これに留まらない。店舗の魚売り場にはいけすが設けられ、新鮮な魚をその場で調理してもらい、味わうことができる。タイムラグが発生するECで生鮮食品を買うことに抵抗をもつ人も少なくないが、店舗でこうした体験をすることで、「あの店で買うならECでも新鮮だ」と考えてもらいやすくなるのだ。
また、米国・ニューヨークのコンセプトショップ「STORY」は、雑誌の企画のように「愛」や「旅」といった特定のテーマを設け、関連するメーカーやサービスに出展を募集。物販は行わず、参加企業からの出展料で収益をあげている。
日本では、三陽商会の女性向けアパレルブランド「CAST:」に注目が集まっている。CAST:は、映画の登場人物が着ている服を購入できる「シネマコマース」と呼ばれる手法を活用。オンラインの映像から直接商品の購入が可能なだけでなく、登場人物が暮らす部屋をコンセプトとしたリアル店舗も展開している。
顧客体験を表現する場としての「Amazon Go」
このように、ECとリアル店舗を融合させた小売ビジネスは、「OMO(Online Marges with Offline)」と称される。オンラインとオフラインが溶けて顧客接点をより強化していく状態を表していて、「アフターデジタル」と呼ばれる場合もある。
これまでは、オフラインの店舗が売上を伸ばす目的でオンラインに進出するケースが多かった。しかし近年は、逆にオンラインを主戦場とし、それを補強するためにオフライン店舗をもつ動きも見られている。木崎氏は、「Amazon Go」もそうした文脈で生まれた店舗であると考察している。
「Amazon Goは無人店舗として注目されていますが、Amazonがネットで提供している購入体験を、リアルで表現するための場所という側面もあるのではないでしょうか。
リアル店舗の価値は、顧客にブランドを体験してもらうと同時に、ブランドが顧客理解を進めるための接点となること。つまり、コミュニケーションの場であるべきです」(木崎氏)
こうした発想を基に木崎氏がプロデュースしたのが、2019年4月にオープンした次世代型ショールーム店舗、蔦屋家電+だ。木崎氏は、そのコンセプトとビジネスモデルの説明に移った。