生産管理は得意な日本人

西口:それはあるかもしれないですね。今うかがって思い出しました、P&Gの新人時代にすごくできる同期が営業に何人かいたんですが、いわゆる昭和系のやり手の上司についた人は、その後そこまで伸びなかったですね。逆に、地味だけど論理的で、実は常に結果を出しているような人についた同期は、幹部レベルになっていたりします。
福田:わかります。営業だと、ついた上司で決まるみたいなことが、今でもすごく多いと思います。一子相伝の世界なので、パターンが無数にある。だから、やったことが本当に正しかったのか、検証が難しいんですよね。あのトークが良かったとか悪かったとかが測れない。
経営も、私の経験上は日本ではあまり体系立てて教わることがなかったのが、米国に行って初めて、経営もテーマごとに分解してきっちり学べるんだとわかりました。そこがあってこそ、再現性が生まれるのだと。
西口:同じ印象ですね。でも、社内の各部門をみていくと、日本人は生産管理がめちゃめちゃ得意じゃないですか? トヨタのカンバン方式は全世界に広まっているわけですし。
福田:それ、まさに米国での上司に言われました(笑)。日本市場の営業のプロセス管理ができていなかったとき、「なぜ生産管理はきちんとやれるのに、営業ではそれを活かさないのか?」と指摘されて、ちょっと返せませんでしたね。
今思うのは、まず生産は業務の質の検証がしやすいですよね。加えて、やはり一人でできるものではなくて、そもそも全体のプロセスがあって分業で進めるものじゃないですか。だから体系化して教えられるようにしておかないと、人が入れ替わったら途端に立ち行かなくなってしまう。
組織のカギを握るファーストラインマネージャー
西口:それは一理ありそうですね。ある会社で、生産現場はプロセス管理をガチガチに敷いた上に、どこでどのようなフレキシビリティーが持てるかまで計算して、生産計画の変更にも柔軟にできるという秀逸な運用がされていました。でもそこは、トップはご自分の暗黙知で直感的に判断する方だったので、トップと生産部門の責任者が全然違うフィロソフィーで動いていましたね。かみ合っていなかったと思います。
福田:トップが形式知化を嫌うことは、往々にしてありそうです。西口さんの書籍を拝読して思ったんですが、前半に体系化した理論があって、後半にスマートニュースでの経験が出てきますよね。多分多くの形式知化を嫌う経営層や、営業なども、この体系と実践の行き来が苦手な人が多いと思います。苦手だからこそ、意識しないと身につかないのかもしれないですね。
西口:福田さんはBtoBの領域で現場から経営まで見てこられて、今はいろいろな企業から相談も受けられていると思いますが、成功している会社にはどういう共通点がありますか?
福田:組織的には、ファーストラインマネージャーが強いかどうかがカギだと思います。現場の営業を束ねる課長クラスの人たちですね。前提としてトップのスポンサーシップは絶対に必要で、ボトムアップだけではうまくいかないんですが、ファーストラインが強くなると、仮にその後に上が変わっても、組織として崩れにくい。
西口:なぜ、ファーストラインマネージャーがカギだと思われますか?
福田:そうですね、何らかの問題が起きたとき、デスクで数字だけ見ていても解決はできなくて、結局現場に入っていかないと本当の理由がわからない。その入っていける層が、ファーストラインマネージャーだからなんじゃないかと考えています。