成功体験がなかったから謙虚に進められた

西口:なるほど。現場の担当者にヒアリングして、掘り下げていかないと根っこがつかめない?
福田:そうですね。西口さんも著書で、一人と話すことが大事だと全編にわたって書かれていましたし、それは私も実感するところで、社内に対しても同じなんだろうと思いますね。だから、このファーストラインマネージャーの層がしっかりしていると、すなわち彼らが次に組織を大きくする基盤となる人たちなんだろう、と。
西口:よくわかります。そういう基盤があれば、トップばかりが「現場を理解しなくては」とズカズカ入り込んで、かえって悪影響を及ぼすようなケースも避けられそうです……これ、けっこうあるんですよね。現場を理解するのはもちろん大事なんですけど。
福田:私もよく聞きますね……現場を理解することと、指示を出すことの違いを認識されていない。
西口:深いなぁ~! まさにそうで、指示を出しまくって現場のモチベーションを下げてしまう。ご本人は現場を見て何とかしようとしているつもりなんでしょうけど……。なぜ、こうなってしまうんでしょうか?
福田:これも、冒頭の企業が舵を切れるかという話と同じで、成功体験が裏目に出ているのだろうと思います。だからどうしても、口を出したくなる。これはトップもそうだし、部門リーダーも同じですよね。
私も常々そうならないように気を付けていますが、振り返ってひとつよかったなと思うのは、自分が営業のマネージャーになったとき、実は営業経験がなかったんです。もし営業成績トップでマネージャーになっていたら、途端にあれこれ現場に口を出して、俺も同行するとかやっていたでしょうね。そもそも、注文書ってどうやってもらうんだろう? っていうところからだったんで(笑)。
「連携プレーがすばらしかった」と受注へ
西口:(笑)。
福田:だからまず、営業のできる人を観察して、結果が出ている人と出ていない人の行動を自分なりにまとめながら部下に展開する、という進め方をしていました。
西口:ある意味、すごく客観的に見られていたわけですね。営業系だと押しの姿勢が強い方も多いですが、福田さんは著書にたとえば「フォーム入力のコンバージョンと同時に電話をかけると商談化率は上がるが、不快に思われる方を確実に増やす」とあったり、徹底した顧客目線が際立っていました。客観視にも通じるかもしれませんが、自身では、なぜそういう発想になったと思いますか?
福田:そうですね、それこそ西口さんの「N1起点」のように、お客さんは一人ひとり違うと実感したことが「The Model」導入のころにいくつかあったからだと思います。
2005年にセールスフォース日本法人に着任したとき、私がマネージャーで営業3人、インサイドセールス3人という小規模チームでスタートしました。電話ヒアリングなんて、と現場の反発や戸惑いもありましたが、まずはやってみようよと言って日々模索していたんです。
あるとき、インサイドセールスからの電話を機に営業がアプローチしていたお客さんを、営業と一緒に訪ねたんですね。それで和やかにランチをした最後に営業が「今日は自分の上司もいることだし、ぜひ今月契約してほしい」と押した。
西口:それで、受注できた?
福田:はい。後々、その企業にはお客様事例に協力して頂いたりと長いお付き合いになって、当時のことを聞くと「実は機能面以上に、あの連携プレーが契約の決め手だった。こういう会社と付き合えばうちも伸びるのではと思った」と言われて驚いたんです。一人の顧客を深く知ることで、見えてくるものが全然違うな、と。
なので、営業のプロセス管理を徹底する一方で、数字はあくまでアタリをつける材料であって、数字だけの判断は信用できないとも思っているんです。
科学的、左脳的な人物と思いきや、意外にも「現場に入り込む」「数字だけの判断は信用できない」といった話が語られた前編。後編では、最近出始めているCROという役職について、さらに人材育成について、福田氏の思考に迫ります。お見逃しなく!