マス広告とデジタル広告を組み合わせることの意味
では、アサヒ飲料では現在どのようなコミュニケーション戦略を立てているのだろうか。高橋氏は現在の広告コミュニケーションの基本戦略を紹介した。

基本的にアサヒ飲料では、コミュニケーションの広さ(リーチ)と深さ(態度変容)を掛け合わせて設計を行っている。そして、広さをテレビCMとリーチを重視したデジタル広告で、深さに関してはエンゲージメント・アクティベーションを重視したデジタル広告で取るようにし出したという。
「マスとデジタルの特性を理解し、リーチと態度変容の両方を確保することをコミュニケーション戦略では重視したいと考えています」
しかしながら、まだ課題はあるという。それは「広告予算の制約がある中、どのようにビジネスに貢献するか」だ。前述した通り、売り上げは好調に推移しているものの、利益が目標値に届かなければ、どうしても広告宣伝費は削減の対象になる。
マス広告とデジタル広告の割合を見ると、2017年の「84:16」から、2018年には「80:20」、2019年(見込み)は「73:27」と、デジタルが順調に増えている。しかし、これは本来のデジタルシフトの成果ではなく、テレビ広告の費用を削減したことで結果的にこのような推移になっているという。
広告の費用対効果の説明をどうするかはアサヒ飲料だけでなく、他の広告主企業にも共通する悩みではないだろうか。高橋氏はこの課題を解決すべく、より広告・宣伝への投資理由を明確にする活動も行っているという。
「デジタル広告が登場したことで、より効率的な広告宣伝費の使い方が求められるようになりました。プランニングから実行、効果検証と経営陣への説明、改善までのPDCAサイクルを回し、支出ではなく将来の投資につながるコミュニケーション設計を実現すべく動いています」
「ウィルキンソン」の新規層獲得にデジタルを活用
次に高橋氏は、統合マーケティングに関する事例を二つ紹介した。一つ目は炭酸水ブランド「ウィルキンソン」のデジタル動画広告を用いた施策である。元々、ウィルキンソンはお酒の割り材として使われることが多く、日常的に飲まれる商品ではなかった。しかし、2011年に500mlのペットボトルを発売して以来、ここ10年で売り上げを10倍以上に伸ばしている。これは「市場に直接飲用を提案してきた成果」と高橋氏は述べ、現在は直接飲用が約7割を占めることを紹介した。
そんな順調な成長を見せる同ブランドだが、課題もあった。というのも、炭酸水ブームに乗じて競合各社も炭酸水ブランドに注力するようになり、競争が激化するようになってきたのだ。
これまで、「最高の刺激をくれる本格炭酸ブランド」というブランド価値を示す世界観を伝達するマス広告を一貫して投下することで新しい市場を作ってきた同社だが、それだけでは競合に打ち勝つのは難しいとアサヒ飲料は考えた。
そこで目を付けたのが新しいターゲットの開拓であった。具体的には、若い女性を対象とする動画広告を複数本作り、ターゲットにあった飲用機会とベネフィットを訴求。こうすることで、リーチだけではなく態度変容にも効果のあるコミュニケーションを仕掛けることができた。
実際、若い女性からの反応がよく、新たな飲用層の開拓につながる可能性が見えたという。さらにテレビ広告とは違い、「Web動画は複数の種類を作り、反応をテストすることがテレビCMよりも気軽にできる」と高橋氏は評した。