※本記事は、2019年10月25日刊行の定期誌『MarkeZine』46号に掲載したものです。
良いIRプレゼンは、時価総額をも変える
IR(Investor Relations)活動と聞くと、財務最高責任者(CFO)やIR担当者の管轄と認識している方も多いかとは思います。しかし、CEOにとって、良いIR資料を作り良いプレゼンをすることは、上場しているか否かにかかわらず、自社の企業価値の向上にとって重要な意味を持ちます。自社の中長期での経営戦略をビジョナリーに、かつ魅力的なデザインに落とし込み、しっかりとマーケット(未上場企業の場合は、プレゼンやピッチを行うキャピタリスト)へ伝えていくことは、経営者が取り組むべき重要なミッションの一つです。
ここ数年、数多くの企業のビジネス診断を実施してきましたが、自社でしっかりとした経営戦略がドキュメントレベルで整理されて、まとめられている企業はそう多くはありませんでした。当社が上場企業向けIRソリューションの戦略デザインをお手伝いした企業の約9割は、関与後、株価や出来高が増加したり、アナリストからの評価が上がったりと、企業価値に何らかのポジティブな反応が起きています。
日本IR協議会の調べによると、「IR優良企業のうち、約71%が上場企業の全体平均よりPBR(株価純資産倍率)が高い」と言われています。それはすなわち、良いIR資料を開示することは、市場に対しその企業の中長期での成長性が理解され、結果として企業評価額の上昇につながっていることを意味します。しかしながら、残念なことに日本においてIR活動における“経営戦略のビジュアライゼーション”に本気で取り組んでいる企業は、IR資料を見る限り、上場している約3,600社の銘柄のうち、0.5%にも満たないのが現状です。
ジョブズのプレゼンの価値はいくらか?
良いプレゼンが企業価値にインパクトを与えるのは、何もIR活動のビジュアライゼーション領域に限った話ではありません。CEOによる新製品発表会のプレゼンテーションなども、その範疇に含まれます。
ライブプレゼンにおいては、演出の部分も含めての“広義のプレゼンテーション”となりますが、スティーブ・ジョブズの新製品発表会のプレゼンの価値はいくらなのか考えたことはありますか? 即座に答えられる人は少ないかとは思いますが、ジョブズであれ、孫正義であれ、ザッカーバーグであれ、世界の著名なCEOによるライブプレゼンには、その企業の価値を大きく変えるパワーがあります。もし、ジョブズが世の中に存在せず、あるいは引っ込み思案な性格で彼に代わって広報責任者の方がプレゼンしていたら、iPhoneの売上やアップルの時価総額はこれほどまでにならなかったでしょう。CEOのライブプレゼンの価値は、それほどまでに計り知れない影響力と価値があるのです。