収益向上には既存ユーザーへの施策が重要
MarkeZine編集部(以下、MZ):はじめに、YouAppi(ユーアッピ)の事業内容と皆様の自己紹介をお願いいたします。
モシェ: YouAppiは「人工知能型アプリ広告配信プラットフォーム」を提供する、モバイルアドテク企業です。技術大国イスラエルの最先端のAI(機械学習)とビックデータ解析技術を駆使し、良質なユーザーの獲得、および既存ユーザーとのエンゲージメント構築を支援しています。
ヒリット:アプリマーケティングの領域では、近年「新規ユーザーの獲得」以上に「既存ユーザーとのエンゲージメント構築」を課題視する企業が増えています。どのようなアプリでもリリースから時間が経つにつれCPIは高騰していき、またアクティブユーザーの離脱も起きてしまうためです。
当社はこうした顧客企業の課題を解決するため、“休眠顧客を呼び戻し、アクティブ率を向上させる”広告配信プラットフォーム「Re-Engagement(リエンゲージメント)」を開発しました。私はこちらのプロダクトマネージャーをしています。
芳井:私はこの9月に日本のカントリーマネージャーに就任しました。ヒリットが挙げたアプリマーケティングの課題は、日本市場でも同様です。どんなに順調にユーザー数が増えているアプリでも、時間の経過と共にユーザー数がこれ以上は増えないという時期は必ず来ます。
そうなった時、新規ユーザーだけをターゲットにしていると、アプリの収益性向上が難しくなります。ですから、既存ユーザーに対しても適切にアプローチし、よりアプリを使ってもらうための施策が必要となるのです。
MZ:YouAppiとして、今後は特にリエンゲージメント広告に力を入れていくと?
モシェ:はい。我々の最終的な目的は、新規獲得~リエンゲージメントまで“クライアント企業のフルファネルマーケティングを実現する”こと。そのために、これまで強みとしていた新規獲得に加え、リターゲティング領域もカバーすべく、「Re-Engagement」をアップデートしました。
ヒリット:「Re-Engagement」は既存ユーザーの中でも、しばらくアプリを起動していない“休眠ユーザー”にフォーカスしています。
3つのステップで休眠ユーザーをロイヤルユーザーへ
MZ:休眠ユーザーに対して、「Re-Engagement」ではどのようなアプローチを行うのでしょうか?
ヒリット:具体的には3つのステップで進めます。第一段階は休眠ユーザーをアクティベートすること。アプリをインストールしていても、何らかの理由でしばらく起動していないユーザーに、もう一度戻ってきてもらうよう働きかけます。
第二段階はリエンゲージすること。戻ってきてくれたユーザーのマネジメントを行い、その人たちから再びエンゲージメントを獲得するのです。たとえば、旅行アプリなら予約、コマースアプリなら商品の購入、ゲームアプリなら課金してもらうことが考えられます。
最後の第三段階はリテンションです。戻ってきてくれたユーザーが離れていかないように働きかけ、ロイヤルユーザーへと育成していきます。
芳井:私たちは、アプリをインストールした時から始まるファネル全体にフォーカスすることを重視しています。フルファネルマーケティングでは、新規ユーザーの獲得だけではなく、ターゲティングでファネルの下に誘導することがとても重要だからです。
どんなユーザーでも最初は熱心ですが、徐々に飽きてきて休眠ユーザーになります。アプリを削除しているユーザーへのアプローチはできませんが、「Re-Engagement」を使うことにより、ユーザーがファネルのどのステージにいるかを正確に理解し、アプリの削除や休眠ユーザーになることを防止できます。
「Re-Engagement」では、興味を持ったばかりのユーザーはもちろん、検討中や購入直前のユーザーにもアプローチを行うことができます。また「アプリを半年使っていない人」と「1ヵ月使っていない人」というように、ユーザーのステージにあわせたメッセージの出し分けも可能です。
「Re-Engagement」4つの強み
MZ:競合と比べた時の「Re-Engagement」の強みはどこにありますか。
ヒリット:私たちの強みは4つあります。一つは先ほど話したように、ファネルの特定のステージにいるユーザーを見つけ、ターゲティングができることです。
第二に業種横断的なナレッジを蓄積していることです。私たちのクライアントは、ゲームやEコマース、旅行、フードデリバリーなど様々なジャンルに及び、ビジネスごとに異なるカスタマージャーニーとその中での行動データを蓄積して学習しています。クライアントはカスタマージャーニーを理解するためにお金を使う必要はなく、新しいキャンペーンを展開するときに私たちのナレッジをゴールの達成に使うことができます。
第三の強みはクライアントのビジネスモデルそのものにフォーカスしていることです。私たちはクライアントをビジネスパートナーと考えていて、そのゴールを達成するために必要なことをインプレッション、クリック、セッション、メディアコストに頼ることなく柔軟に展開できます。
最後に、クライアントのカスタマージャーニーにおけるパフォーマンスをモニタリングするダッシュボードとレポートの提供が挙げられます。このダッシュボードはクライアントにも開放しており、どこに予算を使うのが最も効率的かの判断に役立てることができます。
海外のフードデリバリーとファイナンシャルサービスで成果
MZ:「Re-Engagement」を活用した際の成果について教えていただけますか?
ヒリット:海外の事例を二つ紹介しましょう。一つは米国のフードデリバリー事業者のアプリです。この会社は業界トップ4のうちの一社なのですが、「Re-Engagement」を使って達成したい二つのゴールがありました。一つは最初の注文を獲得すること。もう一つが継続注文の獲得です。
特に最初の注文の獲得数を重視していました。1日に800万回超の起動があるアプリで、このクライアントは6社のリターゲティングパートナーとやりとりをしていたのですが、FacebookやGoogle以外では私たちともう1社の2社のみがパートナーとなりました。パートナーとして残れたのは、注文数を大きくスケールできたことが評価されたからです。
もう一つは欧州のファイナンシャルサービスのトレーディングアプリです。トレーディングアプリはインストールをしてもらっても、実際に取り引きをしてもらわなければ手数料収入を得られません。ですからこの会社は取引数をKPIにしています。「Re-Engagement」は、ユーザーがアプリの使い方に慣れ、頻繁に取り引きをしてもらえるようデモやチュートリアルを体験してもらうために活用されました。メディア支出1ドルに対して3ドルのリターンを要求されましたが、私たちはそれを達成。月に1万回の取引数を2・3倍にスケールさせたことが高く評価されました。
アプリリターゲティングで日本市場を開拓
MZ:最後にYouAppiのビジネス目標と今後の展望について聞かせてください。
モシェ:注力しているのはBtoCの市場です。需要が高まっていますし、事例で紹介したようにいい成果も出せています。ファイナンシャルサービス以外では、不動産会社も重要なクライアントになります。
日本市場の位置づけにおいて触れておくと、日本は米国に次いで2番目に重要な市場です。今の日本オフィスの社員は11人ですが、引き続き日本市場でのビジネス拡大を目指します。アプリのリターゲティングについては日本においても需要の高まりを感じます。トップエージェンシーをパートナーに、引き続き市場開拓を進めるつもりです。
グローバル市場では、アプリマーケティングとリターゲティングビジネス領域で市場を牽引するポジションを確立したいと考えています。YouAppiにはデジタルテクノロジーを深く理解するサイエンティストとエンジニアが揃っています。彼らのナレッジでプロダクトを洗練させ、グローバルリーダーになることを目指します。
芳井:モバイルアプリマーケティングは、新規獲得だけに限ると競合他社が10社以上いる競争の激しい市場です。当社はリターゲティングビジネスで既存顧客へのアプローチによって、活路を見出していきたいと思います。開拓したい業種は、主に小売りや金融の分野です。5Gが登場すればさらに新しいアプリが出てくるでしょうし、これからが楽しみです。