ホスピタリティを体現すべく、オンライン上の情報管理に注力
――はじめに自己紹介をお願いいたします。
竹原:ワンダーテーブルのマーケティングを統括しています。当社は現在12のブランドを展開しており、ミシュランガイドで1つ星を獲得しているフレンチレストランから学生さんも気軽に来られるしゃぶしゃぶ店まで、バラエティに富んでいるのが特徴です。店舗数は国内で49店舗、海外を含めて123店舗ほどですね。
北村:私は各ブランドのホームページ運用を中心に、デジタルマーケティング領域の実務を担当しています。
――早速ですが、ワンダーテーブルさんが目指す顧客体験について教えてください。
竹原:お客様にとっては各ブランド・店舗での印象が顧客体験の大部分を占めると思いますが、当社のブランドに携わるメンバーは皆、共通したホスピタリティの理念に基づいて仕事にあたっています。それは「商品」「サービス」そして「ホスピタリティ」が三位一体となってはじめて、お客様にすばらしい時間を提供できる、という考え方です。
顧客体験をより良いものとするために、近年はデジタルでのコミュニケーション改善にも取り組んでいます。お店で最高の時間を提供することの価値や難しさは昔も今も変わりませんが、その前後の行動は、やはりデジタルによって様変わりしていますね。
北村:かつてはフリーペーパーや対面での口コミなど、アナログな手段でブランドを知っていただくことが多かったのですが、今はオンラインでの検索が入り口となり、公式ホームページ以外のサイトを見て来られる方も大勢いらっしゃいます。
店舗の負担を軽減するため、戦略的な情報発信が急務に
――公式ホームページ以外のサイトと言いますと、たとえばSNSやグルメサイトなどでしょうか。
竹原:それもありますし、トリップアドバイザーやYelp(イェルプ)などの口コミサイト、Facebookのレビュー、そして最近ではGoogleマップ上の口コミや評価が大きな影響をもっていると感じます。そのため当社では、2019年度の重点施策の一つとして、ペイドメディア化しているグルメサイトから脱却し、SNSとGoogleからの集客を強化することを掲げています。
――具体的にはどのような対策を行っているのでしょうか。
竹原:はじめは各サイトの店舗情報に誤りがある場合は修正し、お客様からの口コミにもなるべく迅速に返答しようと方針を定め、各店舗に運用をお願いしていました。ところが現場の仕事は忙しく、一つひとつのサイトを確認するのは大きな負担となってしまいます。本社から何らかのフォローができないか、模索していました。
北村:加えて、最近ではインバウンドの観光客の来店がとても増えていて、各国のサイトに各国の言葉で口コミが書き込まれることもあるので、本当はそちらにも対応したいと考えていました。
口コミ返答率は70%以上に!「情報の一元管理」とは?
――各国でよく使われているサイトを特定し、口コミを見つけ出すことそのものが難しそうですね。
北村:その通りです。そこで今年の春に「Yext(イエクスト)」という検索のクラウドプラットフォームを導入し、各検索エンジンや地図アプリ、サイト、SNSなどに掲載されている自社情報を一元管理し、正しい情報を発信できるようにしたのです。
――「ネット上の自社情報を一元管理」というと、ひとつのプラットフォームで見られるようになったのですか。
北村:はい。これまでは店舗の住所や営業時間などを修正・更新する場合、各サイトにログインしなければならなかったのですが、作業をYext上で一括で行えるようになったため、大幅な効率化につながりました。
また口コミへの対応については、Yextを導入する前の返答率は25%程度に留まっていましたが、今は70%以上にまで向上しました。返答を書き込むのはアナログな行為ですが、そこにたどり着くまでの過程を効率化した成果だと思います。
竹原:当社はホスピタリティの観点から、どんな形であれメッセージをくださった方にはすべてお返事したいと考えています。
デジタル化によって、以前は私たちのもとに届くことがなかったお客様の正直な声も可視化されるようになりましたが、「一人のお客様が書き込んだ内容は、きっと十人の方が感じていらっしゃることだろう」と捉えています。テクノロジーの力を借りながら、そうしたご意見により真摯に対応できるようになったのは嬉しいですね。
オリンピックを見据え、各国の口コミサイト&音声検索にも対応
――Yextを通じて、オンライン上の情報をより戦略的に管理し、正しい情報を発信できるようになったのですね。
北村:はい。他にも、店舗が情報更新や告知を行っているか、口コミに返答しているかどうか、といった部分もYextで可視化できるため、急ぎの対応が必要な店舗には、私たちマーケティング部から声をかけることもできるようになりました。
それから、これまでのところ対策が必要になったケースはありませんが、たとえば炎上につながりかねないキーワードは事前にアラートを設定しておき、本社と店舗の両方ですぐに把握して動ける体制も整えています。
――先ほど課題として挙げられていた、インバウンドへの対応はいかがですか。
北村:Yextはグローバルでも広く活用されているツールなので、世界中の主要口コミサイトを網羅しており、書き込まれた口コミの検出から多言語での返答(※)まで、すべてをダッシュボード上で行うことができています。
(※)日本語で書きこむと、Googleの自動翻訳機能により翻訳される。
また、特に米国と中国では音声検索が浸透しているので、VSO(Voice Search Optimization)と呼ばれる音声検索への最適化も急務だったのですが、Yextはこれにも対応しています。
竹原:音声検索はテキスト検索と違い、基本的に一つの候補しか返答しませんから、たとえば「渋谷のしゃぶしゃぶ店を教えて」と尋ねたとき、最初に「鍋ぞう」が提案されることがとても重要です。2020年の東京オリンピック・パラリンピックに向けてVSOは急務だと感じていたので、これをフォローできる点はYext導入の決め手の一つになりました。
予約数が昨対比120%に、レビュー評価も上昇
――Yextを導入されておよそ半年とのことですが、現状の成果をうかがえますか。
竹原:先ほどお話しした作業の効率化や、返答率の大幅な改善に加えて、Googleでのインプレッション数は約1.5倍に増加しました。さらに、Googleと連携している予約サイトからの予約率も昨年比で120%ほどに伸びました。飲食店予約サイトの「トレタ」がちょうど同じ時期からGoogleと連携したので、その影響もあると捉えていますが、Yext導入の効果を実感しています。
また、当社は5点満点で算出されるGoogleマップの星評価について、今年度中に全店舗平均で4.3まで引き上げようという少々高い目標を掲げているのですが、今年3月末時点で4.0だった数字を、現在4.1まで上げることができています。0.1上げるだけでも大変だったので、短期間で改善できていることに驚いています。
北村:トリップアドバイザーの口コミ件数も順調に増えています。トリップアドバイザーには年間の口コミ数やコメントの質、ポイントに応じて贈られる「エクセレンス認証」という基準があるのですが、お客様とのコミュニケーションを活発化させていくことで、今後より多くの店舗が認証を得られると思います。
――Yextを活用している各店舗の社員さんの反応はいかがですか。
北村:導入時から各店舗に対しYextの使い方をサポートしてきたのですが、皆さん徐々に操作に慣れてきたことがうかがえますし、口コミ返答率の向上もそれを表していると思います。加えてブランド内の各店舗の取り組み状況がお互いにわかったりすることで、店舗間でよい刺激になっているようです。
私たちマーケティング部も、作業の手間が減った分、分析にかける時間が増えて、本来のマーケティング業務に集中できるようになりました。
店舗&デジタルでの良い顧客体験が集客につながる
――飲食業に限らず、多数の拠点や店舗があるような業態の場合、本社と各現場との連携が重要ですが、ワンダーテーブルさんはテクノロジーを上手く活用しながら、スムーズに取り組まれていると感じます。
竹原:そうですね。マーケティング部は全員で六人という体制ですので、すべての店舗に関して人力でケアすることはできません。しかし日々忙しくしている店舗に、あれもこれも依頼することもできないので、お願いすることを取捨選択するとともに、なるべく効率の良い運用方法を提案していく必要がありました。
それに、施策を実行してもらってもその成果が可視化できないと、現場のモチベーションは下がってしまいます。こうした点も、Yextの導入で乗り越えることができていると思います。
――では最後に、デジタル戦略を含めた今後の展望をうかがえますか。
北村:デジタルの部分では、引き続きSEOやVSO、MEO(Map Engine Optimization)に力を入れていきます。各社がMEOに注目し始めているため、キーワード選定がますます重要になると思いますが、Yextを使うとキーワード単位で競合他社との比較ができるそうなので、まずはこれを活用して差別化を図りたいです。
竹原:現時点でもインバウンドのお客様が多いのですが、東京オリンピック・パラリンピックを機に、一気に訪日客が増加すると考えています。最終的には、国籍を問わず、「どの入り口から接触したお客様にも正しい情報を提供し、店舗ですばらしい時間を過ごしていただく。その体験をGoogleやSNSに投稿していただくことで、次のお客様を呼び込んでいく」という好循環が常に生まれる状況を目指したいですね。
そのために、可能なところは極力効率化して、私たちの強みであるホスピタリティを今以上に発揮できるようにしていきたいと思います。