ユーザー拡大は、ファン基盤を固めることから
西井:続いて、日本でサービスを始めたときのプロモーションについて教えてください。
井原:ユーザー獲得に関しては、海外の情報に敏感で、以前からSpotifyを認知されていた方や、テクノロジーに関心が高い方、そして熱心な音楽ファンをターゲットとし、彼らをできるだけ早く取り込んでいくマーケティングを行いました。
西井:いきなり、テレビCMなどのマス展開をしなかったんですね。
井原:日本は他国と比べて、ストリーミング自体の認知度が低いという課題がありました。そこで、まずはストリーミングの理解を進めようと、アーリーアダプターの支持基盤を作り、コミュニティを広げていく戦略を立てたのです。ブランドの認知、理解、愛着をKPIとしながら、周知を広げていきました。

西井:具体的には、どんなことを行ったのですか?
井原:既存ユーザーからの支持が高い、パーソナライズプレイリストなどの機能について訴求するとともに、そうした機能にいち早く触れていただけるよう、動線を設計しました。
西井:新規ユーザーに早い段階で「Spotifyっていいね」という成功体験を届けることで、定着化を図ったのですね。
井原:その通りです。サービスに関しては、「一度体験いただければ、絶対に良さがわかる」と自信をもっていました。
西井:最初の段階で、ファン基盤を固めることは大事です。オイシックスのミールキット「Kit Oisix」も、一部のお客様から熱い支持があり、その方たちに向けてサービスを改善し続けていったら、ソーシャルで発信されるようになったんですよね。
いまや、ファンがいない状態でマス広告を打っても届かない。リアルな口コミや支持が実感できないと、消費者はモノを買わない時代になっています。
井原:そうですね、ファン基盤のある口コミの力は本当に強力です。プレイリストやインストールURLのシェア数も、まわりに使っている人がいるか、話題になっているかによって大きく変わると実感しています。
オンラインの音楽体験をリアルでも提供
西井:現在の新規ユーザー獲得についても聞かせてください。ファン基盤ができた今は、テレビCMも出稿されていますが、効果はいかがでしょうか。
井原:マスとダイレクトマーケティングの相乗効果が見られます。CPAやCPIも細かくチェックしていますが、認知やブランドに対する愛着が高まると、それらの金額も下がってくるのです。「Spotify」というキーワードでの検索も、順調に増えています。
西井:最近はオフラインでの体験も重視されているようですね。
井原:イベントのスポンサードを行うことがあります。今年のサマーソニックでは、Spotifyが広めてきたプレイリストで楽しむ音楽の聴き方をライブでも提供すべく、国やジャンルを超えたアーティストが1つのコンセプトで競演する「Spotify On Stage」というイベントを、初日の深夜に実施しました。
西井:ジャンルや国境を越えた音楽がそろうプレイリストを、アーティストによるライブで実際に聞けるなんて、すごい音楽体験ですね。
井原:ライブとプレイリストを連動させることで、オンラインで音楽を聞くだけに留まらない、ホリスティックな体験を提供したいと考えました。イベント後はユーザーが増えましたし、特定のアーティストのファンとみられる層が、違うジャンルの曲を聞くようになったというデータも取れました。「音楽発見」というSpotifyの提供価値を、リアルの場でも届けることができたと思います。