ターゲティング広告は限界を迎えている?
ここで、現在のターゲティング広告に目を向けると、先述した「ユーザーの意思」から乖離の一途をたどっていることがわかります。現在のターゲティング広告は、ブラウザのCookie上に発行されるIDに紐づいて蓄積された属性や訪問履歴、検索履歴などでセグメントを分けて広告を配信しています。
しかし、ターゲティング広告に用いられるデータはあくまで行動の傾向であり、ユーザーの意思とは別の情報です。そのため一度訪れたWebサイトへの再流入を促す企業からの一方的な関係の築き方に、ユーザーは不信感や嫌悪感を抱き始めています。イーライフが実施した「ネット上の個人情報と広告についてのアンケート」によると、約75%がネット広告に対して 不快感を抱いたことがあると回答。さらに、その理由として「最近調べた内容の記事が出てくることは、正直不信感しかない」「監視されているようで嫌だ」などと回答しているのです。

n=2,388/調査実施期間:2018年4月27日~4月30日
そして、こうした消費者心理に応えるかたちで今、個人情報保護の観点からCookieの制限も起き始めています。たとえばApple社のブラウザであるSafariでは、ITP(Intelligent Tracking Prevention)が適用され、トラッキングが困難になりました。さらにGoogle社でも、Chromeのプライバシー保護を強化する発表が行われるなど、従来のターゲティング手法では、今後ますます活路を見出すことが難しくなっていくでしょう。
広告は一方通行から“対話型”へシフト
こうした一方通行のターゲティング広告が抱える課題から、今海外で注目を集めているのが「チャットコマース(海外ではConversational Commerce/略称CC)」という手法です。チャットコマースとは、企業・ブランドがユーザーとチャットコミュニケーションを行い、食料品の注文、飲食店の予約、旅行の予約、衣服の購入などを促すというもの。日本では主に、LINEやFacebook Messengerなどのチャットアプリがインターフェースとして使われています。

たとえばユーザー一人ひとりの趣味嗜好に合わせて、“その時そのユーザーが求めている商品・情報”を提案するという、従来のターゲティング広告ではできなかったアプローチが、チャットコマースでは可能になります。これまでリアル店舗でしかできなかった「接客体験」を、Web上で実現することができるのです。
“その時のユーザー”に対してパーソナライズされた配信を行うことができるため、ユーザーも提案された商品に対して納得した状態で行動に至ることができます。筆者は、こうしたチャットコマースの特徴は、制限が日々厳しくなり、限界を迎えつつあるターゲティング広告業界を打開するものだと考えています。次ページでは、その3つの理由を解説します。