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マーケティングをより良いものに変える「不可視のダイバーシティ」へリーチする方法とは?

 変化する時代の中で生じているギャップに気づき、マーケティングをより良いものにするための実践的なアイデアが、いま求められています。MarkeZine Figital Firstの新刊『ダイバーシティ×マーケティング』から「1章 多様な時代に企業やブランドに求められているもの」「2章 ダイバーシティとインクルージョン ~当事者は誰なのか~」を抜粋して紹介します。

本記事は『ダイバーシティ×マーケティング』の「1章 多様な時代に企業やブランドに求められているもの」と「2章 ダイバーシティとインクルージョン ~当事者は誰なのか~」からの抜粋です。掲載にあたり一部を編集しています。

日本におけるダイバーシティのイメージ

 本書のテーマである「ダイバーシティ(Diversity)」は「多様性」を意味し、同質性の高い日本において企業やブランドにリードが期待される「変化」であり、社会的な価値表現のひとつでもあります。

 しかし、日本では「ダイバーシティ」という言葉に偏ったイメージが定着しており、見つめるべき本質についてしっかり議論できていないことが課題となっています。「ダイバーシティ=女性活躍推進」や「ダイバーシティ=LGBT」のように、特定の属性を持つ人だけに当てはまるものであって、自分とは関係のない問題だと考えている人も多いのではないでしょうか。

 一方で、消費者が企業やブランドに求める役割が変化しつつあるように思います。企業のあり方を示す「ミッション」「ビジョン」「バリュー」は知られていますが、近年は「パーパス(Purpose)」が加わり、「パーパス・ブランディング」が注目され始めています。

 従来のブランディングは、消費者のイメージをコントロールすることを主眼にしていたのに対して、パーパス・ブランディングは「世の中に存在意義を提示し、その思想に共感してくれる人たちが自分ごと化したストーリーを生み出しやすくなる仕組みをデザインすること」と定義されています。

 グローバルで64%が、日本では53%の消費者が「企業に変化をリードすることを期待している」という調査結果が報告されており、企業が消費者と強いつながりを築くためには、目的主導型のブランディングが求められていると言えるでしょう。

 経営学者のフィリップ・コトラーは、マーケティングの概念をその変化にともない、1.0から4.0まで定義してきました。「機能的価値」や「感情的価値」だけでは補えない「社会的価値」がブランディングに果たす役割が大きくなってきたことは、肌感で理解をされている方も多いかと思います。

 このことを踏まえて、まずは「ダイバーシティ」という言葉について、既存のイメージにとらわれずに本書を読み進めていただきたいと思います。

不可視のダイバーシティへリーチする

「ダイバーシティ」をテーマとしたマーケティング・コミュニケーションにおいて、最初に理解すべきは「可視のダイバーシティ」と「不可視のダイバーシティ」です。

 可視のダイバーシティは、性別・人種など外見で識別できる属性です。それに対して、不可視のダイバーシティは、その人の価値観、態度、嗜好といった内面上の属性で、外部からは識別しにくいものです。マーケティング・コミュニケーションにおいて、可視化されたダイバーシティをもとに安易なターゲティングをし、不可視のダイバーシティを無視した表現を行ってしまったために、反発を招くケースが多くなっています。

 不可視のダイバーシティへリーチし、ロイヤルユーザーを増やした事例としては、パタゴニアが挙げられます。パタゴニアは、米国カリフォルニア州ベンチュラに拠点を置くアウトドア用品・衣料メーカーで、パーパス・ブランディングをいち早く実践し、成功している企業でもあります。

 同社はアウトドアブランドというイメージが定着していますが、同時にエコフレンドリーな企業として認知が高く、2019年には「私たちは、故郷である地球を救うためにビジネスを営む」という新たな経営理念を掲げました。マーケティングでもそのスタンスを貫き続け、環境に対する問題意識の高いユーザー(不可視のダイバーシティ)へ強くアプローチし、長期にコミットしてくれるロイヤルカスタマーを獲得しています。

 パタゴニアが不可視のダイバーシティにアプローチした有名なキャンペーンに、「Don’t Buy This Jacket (このジャケットを買わないでください)」があります。「自社製品を買わないで」という広告は、リスクのある大胆なメッセージでありながら結果的にこの製品の売上を押し上げました。その背景には同社のリユース事業があったことは知られていますが、何より環境問題に取り組む企業としてそのパーパスを示しながら、実績にもつなげた事例として注目されています。

 パタゴニアは社員へも一貫したパーパスを示し、浸透させています。同社の環境への取り組みは、社員が自らの仕事に社会的な意義を感じることができる一因にもなっており、「自由に働けてやりがいのある企業」として在籍する社員からも高い評価を得ています。

 ダイバーシティに対する企業の取り組みは、まだまだ「本音と建前」という面が強いのが実情です。パタゴニアの事例のように社内外へ一貫した姿勢を示さない限り、成功には結びつきにくいでしょう。個人の情報発信が容易となった現在、一貫性を欠いたために足をすくわれて企業価値を損ねた事例は多くあります。

 一貫性と共に、ステークホルダーのインサイトをより深いレベルで理解していかないと、不可視のダイバーシティを求めるユーザーが離反してしまうことにもなりかねません。

 日本でも急速に認知度の高まった「ダイバーシティ」。企業は、この言葉のイメージに振り回されず、日本における本質的な意味を理解し、顧客や社員をはじめとしたステークホルダーのニーズを理解することが、これからのマーケティング・コミュニケーションにおいて重要性を増していくはずです。

ダイバーシティとインクルージョン

 日本は欧米諸国に比べて移民労働者が少ないため、「ダイバーシティ」と「インクルージョン」が企業から注目されるのは遅かったように思います。

 ダイバーシティ(Diversity)は「多様性」を意味し、多様な価値や発想を持った個人が存在している状態を指します。インクルージョン(Inclusion)は「包括」を意味し、多様な個人の能力を最大限に活かすことができている状態を指します。「ダイバーシティ&インクルージョン」のように、2つの言葉がセットで使われるのは、社会や組織としての価値を高めていくために、多様な個が存在する状態を作るだけではなく、その個性を全体として受け入れ、いかに包括するかが重要となるためです。

 日本でこれらの概念がどのような背景から注目されるようになったのか、2つの要因を挙げておきます。まず、「少子高齢化にともなう労働力の確保」です。政府が日本経済活性化のカギのひとつとして位置付けたこともあり、日本では「女性活躍推進」がダイバーシティの大きなテーマと考えている人も多いように思います。世界経済フォーラムが発表している「グローバルジェンダーギャップレポート」の2018年版では、日本は149ヵ国中110位と先進国の中で著しく低い評価になっています。

各国における男女格差を測るジェンダーギャップ指数のランキング(抜粋)
各国における男女格差を測るジェンダーギャップ指数のランキング(抜粋)
出典:内閣府 男女共同参画局総務課、共同参画 2019年1月号

 しかし、1章の「不可視のダイバーシティへリーチする」でも触れましたが、多様性の本質はより複合的で、性別、年齢、障碍、性的志向などの属性だけに限ったものではないので注意が必要です。

 次に「組織としての競争力の強化」が挙げられます。グローバル化やデジタル化にともない、国際的なM&Aも増え、今までの組織のあり方では競争に生き残るのが難しくなりつつあります。また、サブスクリプションサービスに見られるように、顧客との長期的な「関係性」を重視するビジネスモデルへの注目も高まっています。

 企業の価値も、財務的な指標だけでなく、ESGやSDGsに見られるような多様な価値基準によって評価する枠組みも生まれており、環境、社会、コミュニティに対する企業の姿勢や取り組みは今後ますます重要性を増していくでしょう。その中で「ダイバーシティ」と「インクルージョン」への向き合い方は、経営戦略のひとつとして重要なテーマになりつつあります。

ダイバーシティの当事者は誰なのか

 ここで、日本における「ダイバーシティ」というキーワードの注目度と広がりを示すデータを紹介したいと思います。東北大学の一小路武安准教授の論文によると、日本国内で「ダイバーシティ推進」をキーワードとする新聞記事は2006年から登場し始め、2013年以降、記事数は大きな伸びを見せています。

 歴史的には、ダイバーシティの概念は米国がルーツとなっており、1950年代から1960年代にかけて盛んになった公民権運動や女性運動などの反差別運動にさかのぼることができます。日本では、1986年に施行された男女雇用機会均等法がその概念の下地となっていて、男女差別の撤廃がダイバーシティという概念に強く受け継がれていることは皆さんも実感しているところではないでしょうか。

 すでに指摘したとおり、日本では「ダイバーシティ」という言葉に対する偏ったイメージが定着しているため、ダイバーシティと聞いただけでアレルギー反応を起こしてしまうことが多いように思います。

 アレルギー反応は、ある特定の物質に対して免疫系が過剰な拒絶反応を起こすことで生じます。では、ダイバーシティに対するアレルギーは、具体的に何に対する拒絶反応なのでしょうか。そのことについて考えるために、「ダイバーシティの当事者は誰なのか」について考えてみたいと思います。

 そもそも、「ダイバーシティ」とは、社会や組織を構成する人々が多様な価値や発想を持っている状態を指しているので、すべての人が当事者と言えます。

 一方、結婚、子供の誕生、介護など人生のライフイベントによる生活の変化は、個人の価値観を変えていきます。子供が生まれる前と後で、家族や仕事についての考え方が大きく変わったという人も多いでしょう。社会組織の中にある水平方向の多様性と、個々のパーソナルヒストリーの中にある垂直方向の多様性が交錯する中で私たちは生活しています。こうした状況を踏まえると、ダイバーシティは社会や組織のマイノリティの問題だけではないことがわかるでしょう。

 企業内のダイバーシティを推進する際の課題としてよく挙げられるのが「女性活躍推進アレルギー」です。ダイバーシティと聞くと「女性活躍推進」というイメージが強すぎるために、主に男性社員を中心に「また女性の昇進の話か」と批判的にとらえてしまう状態をアレルギーにたとえた表現です。

 しかし、男性も「育休を取りたい」「もっと子供と一緒にいたい」「介護で生活が大変だ」「自分の時間がほしい」「そもそもそんなに働きたくない」と考えている人がいるわけで、一見マジョリティに属している男性の中にも多様性は存在します。ここでしっかりとお伝えしたいのは、「ダイバーシティ」はなんらかの属性を持つ人に限った話ではなく「個の多様性」のことなのです。

 ダイバーシティを「女性の問題だ」というようにカテゴライズしてとらえてしまうと、「男性vs.女性」のように対立的な構図ができあがってしまい、社会にとっても企業にとっても決して喜ばしい状態にはなりません。

 まずは、日本の中で浸透し始めている「ダイバーシティ」の概念に対する偏った考え方を払拭することが、このテーマを考える際のファーストステップです。本書を読み終えた時には、「ダイバーシティ」に対するイメージが皆さんの中でクリアになり、コミュニケーションに潜む思い込みの危険性に気付いていただけるようになればうれしいです。

 
ダイバーシティ×マーケティング

Kindle その他


ダイバーシティ×マーケティング
コミュニケーションをデザインする6つの視点

著者:白石愛美
発売日:2019年11月30日(月)
価格:700円+税

本書について

「ダイバーシティ(多様性)」という概念をとらえ直し、行動経済学、男性学、視点取得、リフレーミング・バリューなど6つの視点を紹介。はじめての人でもわかりやすく問題をときほぐし、実践可能なヒントを提案します。

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【AD】本記事の内容は記事掲載開始時点のものです 企画・制作 株式会社翔泳社

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MarkeZine(マーケジン)
2019/12/10 07:00 https://markezine.jp/article/detail/32394

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