プラットフォーマ―に手数料とデータが流出し続ける危険性
観光庁によると、インバウンド需要について以下のように捉えています。
観光は我が国の成長戦略の柱であり、地方創生への切り札であるという認識の下、拡大する世界の観光需要を取り込み、世界が訪れたくなる「観光先進国・日本」への飛躍を目指す。
出典:(巻末資料1)インバウンド観光の現状と動向と課題(PDF)
また、この「インバウンド観光の現状と動向と課題」によると、旅行手配方法に以下のような変化がおきているそうです。

日本に旅行をする際、4人のうち3人は旅行代理店ではなく個人手配をしているというデータです。トレンドを見ると2016年以降はその傾向が大きくなっていると予測できますが、生活者が様々な情報に触れ、比較検討しながら旅行のプランニングをしている事を考えると、プランニングの段階でコミュニケーションを取る重要性がわかると思います。
言うまでもなく、今の時代各国の生活者はスマホをもって生活をし、スマホをもって日本に来ます。このスマホを活用し、海外生活者と直接的にコミュニケーションをとるという発想はシンプルに到達できるでしょう。一方で、思うように企業がモバイル領域に投資を加速できない大きな理由もあります。宿泊業界を例にとってみましょう。
上述したように、たとえば韓国人が日本に旅行をする計画を立てる際、個人手配のボリュームゾーンが大きい中で、宿泊の手配の手段の1つとしてホテル予約アプリを使うという選択肢の利用が拡大していることはデータから明らかです。
日本の宿泊業界の企業からすると、自社の宿泊施設の在庫を独自に販売するチャネル(主には自社HP)を持ちながらも、リクルートや楽天等、大手の旅行代理店に在庫を卸して文字通り「代理販売」してもらっていますが、海外の生活者に対しては、この日本の代理店がさらに外資のオンライン旅行代理店(グローバルOTA)に在庫を卸す構造となっています。
このビジネスの構造で、いわば日本の宿泊業の企業は、ユーザー獲得やリテンション向上といったマーケティング施策においては「待つだけ」になっています。この構造の顕在的な課題は、「プラットフォーム手数料を払い続けること」でしょう。10%以上の手数料を支払いながら、時にはプラットフォーム上で広告を打つことも余儀なくされ、事業としては利益を削る形となります。売り上げのトップラインを上げるための手段としては良いですが、ここはトレードオフの考え方かと思います。
しかし、この「目先の利益を削ってトップラインを増やす」という構造がもたらす、より大きな問題点は、「データが取れていない」ことです。宿泊業の企業が取れているデータは「誰が・いつ・何泊して・幾ら払ったか」というPOSデータです。POSデータは100年前の技術ですが、現在このレガシーの技術によって得られたデータしか手元に残っていない、という事実が、今後の大きな損害に結び付くのです。
事業会社は、顧客との直接の接点を取り戻そう
プラットフォーマーに在庫を預けて手数料を払うという従来の構造から脱却して、自社でマーケティングをする、もしくは複数企業や国と一緒に仕組みを作っていくという方向に進む目的は、継続的かつ安定した収益基盤を構築することです。
たとえば、2017年10月に観光庁所管の独立行政法人「JNTO」内にデジタルマーケティングを推進するチームが開設され、2020年の東京五輪が終了したあとも訪日外国人旅行者を獲得していけるように、JNTOはDMPを核にして、地方創生までも見据えたデータ活用に取り組んでいく等を掲げています。(参考:プレスリリース)
大事なのは、顧客との直接の接点を持てるのは各事業会社である、という点です。今回でいうと「宿泊業もしくは国内OTA」となります。顧客が、いつどのようなキーワードで検索をかけ、何を基準・重要視してフィルタリングをし、「いくらで予約したのか」だけではなく「予約しなかったのか」というデータも含めて収集することが、今後のマーケティングにおいて非常に重要な根拠となっていきます。
利益を削ることなく、自社で自社の魅力や価値を直接生活者に訴求し、訪日に至り自社のサービスに触れた際には、上記のようなデータを事業会社が直接収集することができます。加えて、顧客が自国に帰国した後に再訪を促すようなマーケティングを行う際に、データを活用して的確な施策を打つことができるようになります。