ブランドの存在意義を伝えるため、ブランドパーパスを策定
江端:まず、LIFULLのコーポレートブランディングの全体像を教えてください。
川嵜:当社は2017年の4月に、「ネクスト」から「LIFULL」へと社名を変更しました。LIFULLは「LIFE」と「FULL」を組み合わせた造語で、あらゆる人々の人生、暮らし(LIFE)を、安心と喜びで満たしていく(FULL)という、ブランドメッセージをこめたものです。ただ、当時は社名を変更しただけで、そこからのブランド価値の構築や、マスターブランドとしてのメッセージングはまだ整理できていない状況でした。
1981年生まれ。2017年LIFULL入社。執行役員CCOとして、ブランド戦略、ブランドデザイン、プロダクトデザイン、コミュニケーションデザイン、研究開発、新規事業など、グループ全体のクリエイティブを統括。またクリエイティブ組織の戦略策定・育成・採用など、組織づくりも担う。カンヌライオンズ金賞、文化庁メディア芸術祭優秀賞を始め、国内外の160以上のデザイン・広告賞を受賞。
江端:なるほど、そこからこのメッセージ「しなきゃ、なんてない。」にどうやってたどり着いたのか興味があります。
川嵜:ブランド価値を構築するためには、まずブランド定義(ブランドパーパス)が必要だろうと考えました。というのも、実は社名を変更してからテレビCM等でもコーポレートメッセージの「あらゆるLIFEを、FULLに。」を繰り返し伝えていたことで、社名自体の認知を向上させることには成功していました。しかし、蓋を開けてみると「それで、LIFULLは何をしている会社なの?」という声がとても多くて。生活者に対して、当社にどのような存在意義があるかを明確に伝えられていなかったのだな、と気づかされました。そこで、経営層や社員も巻き込んだブランドパーパスの策定を4ヵ月かけて行いました。
そこで作ったパーパスが「手つかずの問題でも、視点を変えた発想で豊かさに変える。その結果として、あらゆる人が無限の可能性の中から自分の生きたいLIFEを実現できる社会へ。」というものです。
「しなきゃ、なんてない。」で伝えたいこと
江端:いち会社というより、社会全体を見ているブランドパーパスですよね。
川嵜:そうですね。当社の社是は「利他主義」でして、「公益“志”本主義経営」つまり「世のため人のため」という考えが企業DNAに刻み込まれているのです。そのため、あらゆる事業活動は、社会課題を解決するために存在しています。
今回の「しなきゃ、なんてない。」というメッセージも一方的な企業の押し付けではなく、コンセプトはあらゆるものを受け付ける「The Most Diverse=最も多様性に溢れる企業」とし、コミュニケーションの中に最大限メッセージとして入れています。
たとえば「しなきゃ」の中には、結婚して子供が生まれたら「家事をしなきゃいけない」という考えの人と「家事をしなきゃ、なんてない」という考えを持つ方がいます。我々はその両方ともを認めるよ、というスタンスでメッセージを伝えています。
江端:コトラー博士がMarketing 4.0の中で述べている「自己実現」も、元々はマズローの5段階欲求説から来ていますが、「利他主義が自分のパーパスになっている」という点が、御社の考えと近いですね。
川嵜:そうですね。今の時代、企業がいくら着飾ってブランドや商品の価値を伝えても、中身がともなっていなければ、すぐにバレてしまいますよね。そのため、当社ではコミュニケーションとマーケティングだけではなく、一貫性のある人事やCSR、社員向けサービスも含めた活動をブランドセントリックに進めていこうとしています。