※本記事は、2020年1月25日刊行の定期誌『MarkeZine』49号に掲載したものです。
マーケティングにおいて、消費者の消費行動を予測するために様々な分析が実施されている。分析におけるインプットは、性別、年齢、所得、家族構成などが考えられるが、政治志向・思想を説明変数として重要視することはあまりないかもしれない。日本では政治に関心を持つ人が少ないためだ。
2019年7月末に実施された参議院選挙。全体の投票率は48%と半数を下回る結果となった。日本全体で政治への関心が薄れていることに加え、消費の要となるミレニアル世代における投票率が特に低い状態となっている。
一方、海外の主要市場に目を向けてみると、日本の状況はかなり例外的であることがわかる。政治への関心が高く、その政治志向・思想が消費行動に影響を及ぼしていることが観察されるのだ。特に「ナショナリズムの台頭」が顕著になっている。ナショナリズムの台頭と消費の変化は、海外市場に関わる日本企業にとっても無視できないトレンドであるといえるだろう。
どのようなことが起こっているのか。ナショナリズムの台頭、それにともなう消費の変化について、その最新動向をお伝えしたい。
政治への関心高い欧州、顕在化するナショナリズム
まず、各国の選挙投票率のデータを俯瞰しながら、日本がかなり例外的な存在であるということを確認しておきたい。
日本では衆参両院の選挙とも投票率は50%ほどで推移しているが、欧米主要国の投票率はどれほどなのか。ピュー・リサーチ・センターのまとめ(2018年5月)によると、70〜80%ほどであることが確認できる。
たとえば、オーストラリア90%、ベルギー89%、米国86%、スウェーデン86%、デンマーク86%、オランダ81%、オーストリア80%、ニュージーランド79%、ノルウェー78%、ドイツ76%、フランス74%、イタリア73%、英国69%、カナダ68%、フィンランド66%。日本に比べ政治への関心が高いことは一目瞭然だろう。
こうした国々で今起こっているのが、保守への傾倒、ナショナリズムの台頭だ。移民問題や多国籍企業による富の搾取など、グローバリズムが引き起こした様々な問題に対する対抗運動として、ナショナリズム・ムーブメントが強まっている。
2016年米大統領選挙でのトランプ氏の勝利は、世界の潮流を大きく変えるきっかけになったといえるだろう。トランプ大統領は「アメリカ・ファースト」を掲げ、グローバリズムによって疲弊した米国経済の立て直しを図っている。
米国に続けと欧州でもナショナリズムが勢いを増している。
英BBCは2019年5月「ヨーロッパと右派ナショナリズム:国別ガイド」と題した記事の中で、2019年4月末時点の欧州選挙最新データを示し、欧州諸国におけるナショナリズムの台頭を指摘している。
BBCのデータによると、欧州各国における右派政党の割合は、スウェーデン17.6%、フィンランド17.7%、デンマーク21%、エストニア17.8%、オランダ13%、ドイツ12.6%、フランス13%、スイス29%、オーストリア26%、イタリア17.4%などとなっている。