小売に訪れるマーケティングの変化
これらの変化により、マーケティングのあり方も大きく変わっていきます。まず、これまでマスで捉えていた消費者を性年代別、場合によっては個人レベルで把握できるようになります。さらに個人の行動状況もわかるので、それらのデータをもとに対応を考えねばならないのです。
スマートショッピングカートを使うと、顧客の購買データやカートでスキャンした商品をもとに適切なレコメンドが可能になってきます。たとえば、「この人は大体週に一度この商品を買っているのでそろそろ購入するころだ」「今この人が買った商品に関連するこの商品をお勧めしよう」といったことができるわけです。
レコメンドする商品もAIによって人が想像しない商品の関連を発見することも可能だと思います。まさに「売場がメディア化する」のです。
このように個々の顧客データの取得が可能になってきた今、小売もメーカーも目指すべきはコストの削減と売上の向上です。今後人口は減っていき、全体の売上は必然的に下がるので、いかにシェアを拡大するかがカギとなります。
小売においては、サプライチェーンからカテゴリーマネジメント、ショッパーマーケティングまであらゆる場面での効率化が可能になってきます。メーカーは自社製品の売上だけを考えるのではなく、カテゴリー全体の売上を上げることが小売から求められます。小売はそのために必要なデータを整備してメーカーに供給する必要があると思います。

メーカー、物流・卸、小売が一体に
世の中の産業構造が変化し、すべてがデータ化される時代が来ることは不可避です。加えて、産業全体のエコシステムの中で、全体を最適化するために必要なデータを出し合ってシェアする必要があります。データを各社の社内だけにとどめていては、多少のコスト削減や売上アップにつながったとしても、大きな価値を生むことはできないためです。
物流においても「フィジカルインターネット」の考えのもと、倉庫やトラック、ドライバーなどの人員をシェアして全体のコストを削減する動きが世界中で始まっています。AmazonはAmazon Web Servicesの発想と同じく、いち早く自社の配送網を他社に開放することを始めています。アリババも小商店を物流拠点として活用する試み(天猫小店)を始めています。エコシステムで最適化を図るためには、業界全体で1つのプラットフォームを作る必要があります。
技術はある程度出揃っています。その技術をどのように使って利益につなげていくかが課題となっている今、小売においてもサプライチェーン情報プラットフォームを作り、メーカー、物流・卸、小売が一体となって情報を共有し、無駄なコストを省くことによって、消費者により良い商品や情報をより安く届けることを可能にすることを全体で考えていくべきだと思います。
先ほどご紹介したAIカメラを装着した冷蔵機器の例もそうですが、そのことに関わるすべてのプレーヤーが参加しないと結果は得られません。そのためには経営陣が既存の概念や商習慣、既存の組織やビジネスのことは考えないで逆に既存のものを破壊して再構築するような発想が必要となってきます。
また人材の育成も必須です。ダーウィンが「生き残る種とは、最も強いものではない。最も知的なものでもない。それは、変化に最もよく適応したものである」という言葉を残したように、小売の大きな変化に適応することが各プレーヤーに求められています。