日本特有のハードルと目指すべき方向性
世界中の企業がSDGsへの取り組みを進めていますが、日本国内においてSDGsを企業の経営とマーケティングに組み込んでいくにあたっては、大きな課題が横たわっています。それは日本の生活者のサステナブル購買に対する意識が、ヨーロッパを中心とした海外の国に比べてまだ低いレベルにとどまっていることです。食べ物を無駄にしない、長く使えるものを買うなどの意識は定着しているものの、不法労働や児童労働なしに生産されたものや、環境保全に留意した商品を積極的に選ぼうとする意識は十分浸透しておらず、このことはFSC認証(森林認証)やMSC認証(海のエコラベル)などのサステナブルな生産物に対する第三者国際認証の認知度が7割近いヨーロッパ各国に対し、日本ではわずか1割程度であることからも明らかです。
このため企業側の経営やマーケティングのSDGsシフトにも本腰が入らず、そのことにより、海外に比べサステナビリティに対するイノベーションがさらに遅れるという負の循環に陥っています。こうした企業の取り組みの遅れは、今後企業が国内市場の縮小にともなって海外進出しようとする際に大きな足枷となることを考えると、将来にわたる日本の大きな課題とも言えるでしょう。
成長を志向する企業こそ、グローバルな視野で未来を見据え、マーケティングを通じて国内生活者の意識と行動の変革を自らリードし、サステナビリティ市場自体を拡大しながら、先行者としてその果実を享受し、次世代への道を開いていくことが重要です。
「三方よし」や「もったいない」、自然そのものの中に神を見出してきた文化を持つ日本にとって、社会と環境と経済の統合はむしろ強みのはずで、本来ならば世界を牽引していく役割を担っていけるはずであり、そうした意識を国、企業、市民の各レイヤーで共有したいものです。
SDGsで生まれる新たなコラボレーション/「EARTH MALL」の例
SDGsでは17の目標に紐づく形で169のターゲット(具体目標)と232の指標が設定されています。たとえば12番の「つくる責任 つかう責任」を達成する指標12.5.1は「各国の再生利用率、リサイクルされた物質のトン数」となっており、これを見ただけでもSDGsは一企業だけで達成することは難しいものであることが理解できます(図表2)。

17の目標すべてをカバーする必要があるのではと考えられがちですが、SDGsでは17番目の「パートナーシップで目標を達成しよう」が最も重要な目標とされており、その肝は“コラボレーション”にあります。17の目標のうち、企業や各ステークホルダーが得意な活動を持ち寄りながらパートナーシップを組むことで大きな目標を達成する。SDGsを合い言葉に、これまでは成し得なかったコラボレーションを実現する大きなビジネスチャンスが潜んでいます。
たとえばSDGsが採択された2015年、当社の呼びかけのもと、企業、行政、アカデミア、市民が連携してSDGsに関するイノベーション創出を目指す共同プロジェクト「OPEN 2030 PROJECT」が発足しました。この活動の中で、誰もが行う“買い物”をSDGs達成の具体的なアクションへと変えていく「未来を変える買い物 EARTH MALL」というアイデアが生まれ、博報堂がその社会実装と運用を行っています。
いわゆる調達→加工→流通→小売というバリューチェーンにおいて消費(買い物)は川下にありますが、消費が変わることによって調達などの川上も変わっていく。いわば「あなたの意志ある買い物が未来を変える」という発想の転換によって新たな行動を促していこう、というのがEARTH MALLのコンセプトです。一方で、それを実践するとなると、「どこで何を買ったらいいのか」という生活者の悩みや、「何を提供し、どう伝えるべきか」という企業の課題が発生します。
EARTH MALLではそういった課題をコラボレーションで解決しています。バリューチェーン上の各ステークホルダーや有識者とともに共創コミュニティで議論し、様々な具体策へとつなげています。たとえば生活者の「どこで何を買ったらいいのか」に答える「EARTH MALL with Rakuten」(図表3)は、約2.5億ある楽天市場の商品の中からSDGsに貢献する商品をセレクトし紹介するサイトで、楽天市場の店舗のサステナブルマーケティングへの関心を高めるきっかけにもなっています。
