ポイントは遊びのルール作りと親近感を湧かせること
――「マネしたい」「自分もやってみたい」といったリアクションを引き出すには、どうすればいいのでしょうか。
ポイントは2つあって、1つはわかりやすい“遊びのルール”を作ることですね。たとえば、テレビCMや動画広告、アニメ、ドラマなどで何かおもしろいフレーズを見つけた人が、それをネタにした投稿をTwitterなどで行い、二次創作動画や静止画がどんどん出てくることがよくあると思います。この場合、みんなが聞いたことがある「特定のキーフレーズをネタにする」が、“遊びのルール”になっているケースが多いです。
そのため、そのような広がりを意図的に狙っていくのであれば、クリエイターやマーケターは、受け取り手が二次創作をしたくなるような、魅力的でわかりやすい“遊びのルール”を、クリエイティブ表現の骨組みに組み込めるかどうかが重要です。
もう1つは、「親近感を湧かせる」というアプローチです。
動画を見た生活者に、自分にもできそうだし、やってみたいと思える感覚を残すことを狙う方法です。これまでの動画広告は、見た人から「到底自分には撮れるはずがない」と驚きを与える企画が、ほとんどだったと思います。
しかし、誰でも動画を撮影・編集できるようになったことで、自分の友達がSNS上に普段アップしている動画など、「撮りっぱなしのライブ感」を感じるようなよりカジュアルな撮影動画との接触頻度も増えました。
それにより、普段友達が何気なく上げている動画のような、いい意味で作り込まれていない「広告らしくない」映像を活用した好意獲得や興味喚起もしやすくなったのではないかと思います。
――では、2つ目の意識すべきことについても教えてください。
2つ目は、「話題の賞味期限」を意識するということでしょうか。今は企業や芸能人、YouTuber、友達などがアップする動画やコンテンツを日々見るようになったことで、各動画の「話題の賞味期限」は明らかに短くなっている気がします。
そういった情報環境下で、本当の意味で継続的にブランドに対する関心を獲得するためには、どのような形式と頻度でコンテンツを発信していくべきか、その目的に応じて考える必要があります。加えて、それを動画単体で考えるよりは、キャンペーン設計として配信計画を検討することも大事だと思います。
パッケージからSNSの投稿まで学生たちの可能性をとにかく探った
――続いて、実際に櫛田さんが担当した案件で、うまくいったお仕事をご紹介いただけますか。
ここまでお話ししてきたような「リアクションの設計」と「見続けてもらえる工夫」をするという、2つの課題意識をもって取り組んできた仕事が、日本コカ・コーラ社のファンタのキャンペーン「ファンタ坂学園」です。ファンタはブランドの価値として「ティーンたちの楽しい時間を作ること」を大切にしてきています。
そのために考えたのが、ファンタの製品自体を、ティーンたちの「遊び」にしてしまうという作戦です。ティーンたちが常に求めているニーズは、「友達との仲を深めたい」「楽しい会話を作りたい」ということ。
特にそのニーズが高まる新学期のタイミングだからこそ“ハジける変顔ボトル”という、顔にかざすだけで変顔遊びができるパッケージで、ティーンたちが友達との距離を縮められるような楽しい会話のきっかけが生まれたらいいなと考えました。ボトルのデザインも「寝不足」「やらかした」「パリピ」など、学校生活の中でふざけ合うのに使いやすそうなネタから逆算して、店頭で並んだときにも賑やかな46種類用意しました。

――では、“ハジける変顔ボトル”の告知はどのように行ったのでしょうか。
今回のキャンペーンでは「“ハジける変顔ボトル”を使ってSNSに、こんな画像や動画をアップして参加してね」という、ファンタ側からのアプローチは極力避けました。というのも、ティーンたちにとって変顔は目的ではなく、あくまで友達との時間を「もっと楽しくする」ための手段でしかないので。
そのため、タレントさんに等身大の学生たちを演じてもらうことで、彼女たちの“楽しそうな時間”を見せていくことで、ファンタのボトルの楽しさが伝わればよいなと考えました。
――確かに、「変顔したいから買う」という人はいなさそうです……。
また、「遊び方」も極力指定しないようにしました。“ハジける変顔ボトル”であっても、たとえば友達みんなで同じデザインのボトルを購入すれば「お揃い」という仲良しアピールアクションになるかもしれないし、ゴリラボトルがその場にあれば「モノマネ対決」遊びが生まれるかもしれない。
“ハジける変顔ボトル”を友達と一緒の時間に手にしたときに、どんな楽しい会話が生まれる可能性がありえるのか? を想像しながら企画していました。